森の雑記

本・映画・音楽の感想

絵解きの愉しみ 説話画を読む

絵解きの愉しみ 説話画を読む はじめに 「エトキ」という言葉をご存知だろうか。新聞などで図や写真、イラストに添えられるキャプション的説明文句のことである。おそらくこの言葉は、かつて説話画等々を観賞する方式であった「絵解」=口頭での内容説明から…

とんかつのあけぼの

とんかつのあけぼの カツ丼を食べた話です。 僕はカツ丼が大好きである。甘くて風味のある卵でとじられたカツ、その出汁を浴びて狐色に輝く玉ねぎ、卵・カツ・玉ねぎの三層で閉じ込められ温かいままのご飯、どれもたまらなく好きである。 カツ丼に目覚めたの…

どうせカラダが目当てでしょ

どうせカラダが目当てでしょ はじめに 新しく読むエッセイを探していたところ、衝撃的なタイトルが目に飛び込んできた。「どうせカラダが目当てでしょ」は、王谷晶著、河出書房新社発行の一冊だ。河出書房と言えば、先日ここでも書いた最果タヒ著「きみの言…

日本の近代とは何であったか

日本の近代とは何であったか 問題史的考察 はじめに 岩波新書、三谷太一郎著「日本の近代とは何であったか−問題史的考察」を読んだ。先日友人にこの本を借りてから寝かせることひと月半、ようやく重い腰が上がった。面白そうだと思って借りたはいいものの、…

アンドロイドは電気羊の夢を見るか?

アンドロイドは電気羊の夢を見るか? はじめに 高校生の頃、よく市立図書館で勉強をしていた。学習専用のスペースもあるそこは、塾に通わない僕みたいな受験生にはうってつけの場所だった。だってとても静かだし。けれど、そんな市立図書館にも1つ欠点がある…

違和感たち

違和感たち 生きていて「ん?」って思うこと、ありますよね。 ① 北海道「県」 毎回動画のアップを楽しみにしているユーチューバーがいる。ある日、彼女は「質問回答」の動画をあげた。ネタ切れのユーチューバーがよくやると噂のあれだ。 その動画の中には「…

千年後の百人一首

千年後の百人一首 はじめに 小学生4年生の頃、僕のクラスでは毎朝百人一首が行われていた。全100首が20首ずつ5色に分けられた五色百人一首が使われていて、今月は赤色、来月は緑色といった風に月ごとで扱われる札が変わっていく。このルールのもと、生徒はリ…

幸福とは何か 思考実験で学ぶ倫理学入門

幸福とは何か 思考実験で学ぶ倫理学入門 はじめに あなたはトロッコ路線切り替えの作業員である。線路の上を猛スピードでトロッコが走っており、あるポイントで線路は二股に分かれる。そんな時、片方の線路では作業員が線路を修復する作業をしていた。このま…

劇団四季 ライオンキング

劇団四季 ライオンキング はじめに 7月末の昼過ぎ、JR大井町駅から歩くこと数分、少しわかりにくい立地にある劇団四季「ライオンキング」専用劇場は、缶詰のような形をしていた。隣には「Cats」の専用劇場もある。1つの演目を開くためだけの劇場があるのは驚…

おたのしみ弁当

おたのしみ弁当 はじめに エッセイを読むのが好きだ。何気ない日常を素朴な言葉に落とし込んだ文章が好きだ。いつからか頻繁にそんなエッセイを読むようになっていた。自分のことを書くというのは、とても簡単なようでいてやってみると意外に難しい。当然の…

世界一やさしい問題解決の授業

世界一やさしい問題解決の授業 はじめに このブログを始めたばかりの時は、けっこうな頻度でビジネス書を読んでいた。「金持ち父さん」「トヨタ式」などがその例だ。https://highcolorman.hatenablog.jp/entry/2020/04/04/140021 けれど、ここ2ヶ月くらいは…

新刊とブックカバー

新刊とブックカバー 先月のことです。 先日、敬愛する森見登美彦先生の新刊、文庫版「太陽と乙女」を購入した。これは、2017年に新潮社が刊行した単行本エッセイ集を同社が文庫化したモノである。新刊を発売日前から心待ちにし、発売当日に本屋に走る行為は…

きまぐれロボット

きまぐれロボット はじめに 星新一のショートショートをひと月ぶりに読む。前回は「地球から来た男」。 地球からきた男 - 森の雑記帳 今回も高校時代に買った本をひっぱり出した。ずいぶん前に手にした本をもう一度読むのって、タイムカプセルを開けるときみ…

ファイヤパンチ

ファイヤパンチ はじめに 「チェンソーマン」といえば、現在週刊少年ジャンプで連載中、藤本タツキ先生の人気作品である。なんとなくジャンプっぽくない作風の本作に、僕は夢中になった。淡々とした描写の中にある人間味に様々なことを思わされ、品があって…

はじめて学ぶ民俗学

はじめて学ぶ民俗学 はじめに 先日南方熊楠の本について書いたが、民俗学と言えばもう一人決して忘れてはならない人がいる。そう、柳田国男である。日本民俗学の開祖ともいっていい彼の功績は計り知れない。そのほんの末端ではあるが、倫理や国語の授業を通…

K君のこと

K君のこと ただの昔話です。 高校時代の思い出の一つに後輩のK君に関するものがある。僕はそれを「ティッシュ募金箱事件」と勝手に名付けているのだが、今日はその事件について書きたい。 高校3年生になっていよいよ卒業が見えてきた夏頃、僕の所属する生徒…

きみの言い訳は最高の芸術

きみの言い訳は最高の芸術 はじめに 最果タヒさんと言えば、今や多くの人の知る現代詩人である。僕は彼女の詩を立ち読み程度でしか目にしたことがないが、彼女のエッセイ「もぐ∞」は読んだ。これは食べ物にまつわるエッセイ集で、食べ物への素敵な感性や表現…

医者とはどういう職業か

医者とはどういう職業か はじめに 先日読んだ「医者と患者のコミュニケーション論」の著者、里見清一先生が幻冬舎から出版された、「医者とはどういう職業か」。前者に勝るとも劣らぬ良書であった。 どんな本にも言えることだが、やっぱり同じひとが書いた別…

千と千尋の神隠し

千と千尋の神隠し はじめに 新型コロナウイルスが引き起こした事象のうち、数少ない正の影響として「ジブリ作品の劇場上映」がある。ウイルスは僕らに名作の数々を大スクリーンと大音響で味わう機会をもたらした。そのチャンスを逃さないよう、先日映画館に…

アマテラスの誕生 古代王権の源流を探る

アマテラスの誕生 古代王権の源流を探る はじめに 民俗学の本について書いた前回に引き続き、今回は神話の本。こういう記事が連続するとなんだか怪しく思われる方もいるかもしれないが、好きなんです、神話とか伝承とか。 初めて古事記を読んだのは、確か中…

南方熊楠 人魚の話

南方熊楠 人魚の話 はじめに 南方熊楠をご存知だろうか。高校倫理や日本史の授業で彼を知った人も多いかもしれない。僕も高校時代に倫理の授業で彼についてほんの少し勉強した。神社合祀に反対したこと、粘菌に詳しい民族学者だったこと、昭和天皇に標本を手…

『広辞苑』をよむ

『広辞苑』をよむ はじめに 中学校3年生のときに電子辞書を買ってもらった。この小さな機械はなかなかの優れものである。英和辞典はもちろん、世界史の一問一答、TOEIC模擬テストなど、実に多くのテキストが内蔵されており、一台持っていれば大抵の学習はで…

ブログのすゝめ

ブログのすゝめ はじめに この間の投稿で記事数が50を突破した。当面の目標を「100日で記事50本」に定めて始めたブログだが、実に92日で目標に到達できた。実に喜ばしい。 これからしばらくは忙しい日々が続くので、これまでの頻度で更新することはできない…

四畳半王国見聞録

四畳半王国見聞録 はじめに 大学2年生の12月に引越しをした。当時の部屋は大学まで自転車で15分ほどのところにあって、4階建ての4階、広さは6畳ほど。脱衣所がなかったり何をするにも手狭だったりと、少々不便な物件だった。そんな部屋に見切りをつけ、今の…

新・戦争論 僕らのインテリジェンスの磨き方

新・戦争論 僕らのインテリジェンスの磨き方 はじめに 先日「AI時代の憲法論」を読んだ際に初めて知った佐藤優さんと、お馴染み池上彰さんの対談を文春新書から発行したのが本書。発行は「新・戦争論」「AI時代の憲法論」の順だが、僕は時系列に逆らう形で本…

地球からきた男

地球からきた男 はじめに 星新一先生の作品はいつまでたっても色褪せない。小学生の時、初めてショートショートを読んだときの気持ちは、20をすぎた僕にも冷凍保存されたかのように新鮮な状態で届けられる。とはいえ、冷凍保存された物はその前と比べて多少…

医者と患者のコミュニケーション論

医者と患者のコミュニケーション論 はじめに 人間はコミュニケーション能力を求めている。就職活動の面接、友達作り、飲み会…多くの場面で円滑にコミュニケーションが行えれば、人間関係は良好になる可能性が高いからである。そのせいだろうか、巷にはコミュ…

嬉しかったこと

嬉しかったこと 本が好きなおかげで嬉しいことが起こった。それも、同じ日に2つ。 喜怒哀楽等々の感情が読書自体によってもたらされることは多い。素晴らしい小説を読んだ時や、悲痛な事実を伝えるルポを読んだ時など、本それ自体は僕たちに多くの感情をもた…

彼方の友へ

彼方の友へ はじめに 本好きなら誰しもが一度は「自分で小説を書きたい」と思ったことがあるだろう。そして勢いのままに筆をとったはいいけれど、多くの人は生まれた文章の不格好さに落胆し、才能のなさを嘆く。そんな人が次に志すのは、たいてい出版社に勤…

AI時代の憲法論 人工知能に人権はあるか

AI時代の憲法論 人工知能に人権はあるか はじめに 人工知能技術や、その発達を加速度的に推進したディープラーニング技術など、かつてSF小説に登場したようなテクノロジーは、もはや空想のものではなくなりつつある。巷には様々な「AI本」が溢れかえっていて…