森の雑記

本・映画・音楽の感想

小説

西の魔女が死んだ

西の魔女が死んだ はじめに 塾で中学生を教えていたら、模試の国語で「西の魔女が死んだ」の一節が登場した。鶏が登場する部分を読み、この物語を全部読んでみたいと思った。塾講師をやっているとこういう出会いがあるので助かる。 新潮社発行、梨木香歩著。…

モモ

モモ はじめに 超有名なタイトル、ミヒャエル・エンデの「モモ」。多くの方々が小学生の時に手にしたであろうこの作品を、僕はずっと読んでこなかった。しかし、持ってはいた。両親どちらが買ったのだろうか。「モモ」は実家の本棚にひっそりと置かれていた…

永遠の出口

永遠の出口 はじめに 森絵都さんの「カラフル」を初めて読んだ時の衝撃を覚えている。中学生ってこんなに汚くて、辛くて、怖いものなのか、と小学生だった僕は怯えに怯えた。実際私立の中学に行ったこともあってか、そんなことはなかったのだけれど。 学生の…

ボクたちはみんな大人になれなかった

ボクたちはみんな大人になれなかった はじめに 高校生の頃、「東京カレンダー」と「cakes」の連載をよく読んでいた。前者は東京に暮らすアッパー層の生活や小説を、後者はさまざまなクリエイターの「新しい」作品を読むことができた。片田舎で生きる僕にとっ…

アラビアンナイトを楽しむために

アラビアンナイトを楽しむために はじめに ディズニー映画で一番好きなのは「アラジンと魔法のランプ」だ。去年公開された実写版は3度も見に行った。あの世界の香り立つ感じというか、熱気というか、そんな部分にはどこか惹かれるものがある。いつか実際に足…

記憶の盆をどり

記憶の盆をどり はじめに 先日読んだ「きげんのいいリス」は小説と呼ぶにはライト、かつ深すぎた。決して貶しているわけではなく、ものすごくいい本だったのだけれど。となるときちんと「ザ・小説」みたいなものを読んだのは色川武大「怪しい来客簿」まで遡…

きげんのいいリス

きげんのいいリス はじめに 意表をつかれるタイトル。新潮社「きげんのいいリス」は、オランダの作家で医師、トーンテレヘンの著作を長山さきが翻訳した本である。現代を忠実に訳すと「ほとんどみんなひっくり返れた」となるようだが、あえてこのタイトルを…

怪しい来客簿

怪しい来客簿 はじめに 岸本佐知子さんの「いま、これ読んでる」より、色川武大著「怪しい来客簿」(文集文庫)を読んだ。不思議なタイトルと風船のように太陽を持つ男の表紙、どちらも心がざわつく1冊である。 全体をみて 著者色川武大は一体どんな人生を歩…

東京日記 

東京日記 はじめに 詳細は忘れたがなにかの拍子に内田百閒という作家を知った。読みは「うちだひゃっけん」見たこともない漢字が使われているな、というのが最初の印象である。この作家さんは時を遡ること1971年に死去されているのだが、ファンが多いらしい…

銀河ヒッチハイク・ガイド

銀河ヒッチハイク・ガイド はじめに 先日紹介したTSUTAYAの企画「いま、これ読んでる」。これには森見登美彦先生意外にも多くの方々が選者として参加していて、翻訳家の岸本佐知子さんも名を連ねる。僕は「ネにもつタイプ」を読んで以来彼女のファンであるの…

TVピープル

TVピープル はじめに 読んだことのない作家の本を開くときはいつもドキドキする。好きな作家の作品であれば、読む前からあらすじ等の事前情報が入ってくる。著者SNSをフォローしていたり、巻末に他作の紹介があったりするためだ。翻ってこれまで縁のなかった…

ボートの三人男

ボートの三人男 はじめに 今年の6月ごろ、TSUTAYAが面白い企画商品を売っていた。名前は「いま、これ読んでる」。著名な作家が文字通り「読んでいる」作品をセレクトして、セット発売する商品だ。参加する作家には敬愛する森見登美彦先生や岸本佐知子さんも…

三島由紀夫レター教室

三島由紀夫レター教室 はじめに 最近は小説を読んでいなかった。ここ1ヶ月では森見先生の新作くらいしか読まずにいた。このくらい疎遠になってくるとなんとなく寂しくなるもので、小説を探すことに。久々に読むのだから歯応えのあるやつがいい。けれどしばら…

四畳半タイムマシンブルース

四畳半タイムマシンブルース はじめに 「タイムマシン」それは洋の東西を問わずそこかしこに出てくる、時空を移動するためのツールだ。誰だって戻りたい過去があるし、覗いてみたい未来がある。人類共通の願いを叶えるこの機械は、多くの物語で主要なモチー…

アンドロイドは電気羊の夢を見るか?

アンドロイドは電気羊の夢を見るか? はじめに 高校生の頃、よく市立図書館で勉強をしていた。学習専用のスペースもあるそこは、塾に通わない僕みたいな受験生にはうってつけの場所だった。だってとても静かだし。けれど、そんな市立図書館にも1つ欠点がある…

きまぐれロボット

きまぐれロボット はじめに 星新一のショートショートをひと月ぶりに読む。前回は「地球から来た男」。 地球からきた男 - 森の雑記帳 今回も高校時代に買った本をひっぱり出した。ずいぶん前に手にした本をもう一度読むのって、タイムカプセルを開けるときみ…

四畳半王国見聞録

四畳半王国見聞録 はじめに 大学2年生の12月に引越しをした。当時の部屋は大学まで自転車で15分ほどのところにあって、4階建ての4階、広さは6畳ほど。脱衣所がなかったり何をするにも手狭だったりと、少々不便な物件だった。そんな部屋に見切りをつけ、今の…

地球からきた男

地球からきた男 はじめに 星新一先生の作品はいつまでたっても色褪せない。小学生の時、初めてショートショートを読んだときの気持ちは、20をすぎた僕にも冷凍保存されたかのように新鮮な状態で届けられる。とはいえ、冷凍保存された物はその前と比べて多少…

彼方の友へ

彼方の友へ はじめに 本好きなら誰しもが一度は「自分で小説を書きたい」と思ったことがあるだろう。そして勢いのままに筆をとったはいいけれど、多くの人は生まれた文章の不格好さに落胆し、才能のなさを嘆く。そんな人が次に志すのは、たいてい出版社に勤…

ぼっちーズ

ぼっちーズ はじめに 孤独耐性の話をしよう。程度の差こそあれ、人間は誰しも孤独に弱い。社会を形成する人間という生き物は、ひとりになることを得意としないのだ。このことは、コロナショックでより鮮明になったように思う。zoom飲み会などの流行はその現…

僕と先輩のマジカル・ライフ

僕と先輩のマジカル・ライフ はじめに はやみねかおる先生には、「都会のトム&ソーヤ」や「夢水清志郎」シリーズでお世話になった方も多いのではないか。事実、僕は小学生の頃に読んだ「マチトム」が今でも忘れられない。二人の中学生の友情、ユーモラスな…

宵山万華鏡

宵山万華鏡 はじめに 日を追うごとに夏が進攻する昨今、いかがお過ごしだろうか。都内でも気温30度を超えるところが出てきたというから驚きである。夏と言われると思い浮かぶ、海水浴、プール、バーベキューなど、多くの人が集まる風物詩も今年は開催の目処…

新釈 走れメロス 他四篇

新釈 走れメロス 他四篇 はじめに 太宰治「走れメロス」の物語を全く知らないという人はここ日本にいるまい。さらにいえば、中島敦「山月記」も多くの人の知るところであろう。両者は様々な教育課程においての国語の教科書に取り上げられてきたためである。 …

天国への道 星新一

天国への道 星新一 はじめに 僕が初めて星新一先生のショートショートを読んだのは、小学校4年生の時だったと記憶している。当時の僕はお昼休みの図書室通いを毎日のルーティーンにしていた。外でドッジボールを楽しむ同級生を窓から眺めつつ、空調の効いた…

君はポラリス 疑問が彩る人間関係

君はポラリス 疑問が彩る人間関係 はじめに 先日「罪と罰を読まない」の記事を書いた際、三浦しをんさんの代表作として「君はポラリス」をあげさせていただいた。しかし、代表作と挙げていながら、僕はこの作品を断片的にしか読んだことがなかった。恥ずかし…

きつねのはなし 森見流怪談

きつねのはなし 森見流怪談 はじめに 相も変らぬ自粛ムードの日々。このようなテンションで向かうゴールデンウィークは人生で初めてのことだ。家にこもってだらだらする、日常的なライフスタイルがこうも長く続くと、これはもはや非日常である。とはいえ、非…

星の王子さま 世界でいちばんうつくしい小説

星の王子さま 世界でいちばんうつくしい小説 はじめに 絵本のような、詩のような、それでいて哲学書のようなこの小説との出会いは中学生のころだったと思う。当時は単純に不思議な物語として読んだ。高校生になり再読。今度は何とも示唆的で、美しい考え方を…

有頂天家族 二代目の帰朝

有頂天家族 二代目の帰朝 はじめに 有頂天家族の一冊目を読んでから三日、続きが気になっていてもたってもいられなくなり、この二冊目を購入し、読んだ。一冊目は一冊目であのまま終わってもいいくらいにまとまった作品であったから、次はどうなってしまうの…

有頂天家族 言うまでもなく、森見作品である

有頂天家族 言うまでもなく、森見作品である。 はじめに 僕と森見登美彦さんの出会いは8年前、中学校の図書館にさかのぼる。もとより読書好きであった僕は、部活前のわずかな時間、放課後の図書館をうろうろ物色していた。そこで目についた本「夜は短しある…