新・戦争論 僕らのインテリジェンスの磨き方
新・戦争論
僕らのインテリジェンスの磨き方
はじめに
先日「AI時代の憲法論」を読んだ際に初めて知った佐藤優さんと、お馴染み池上彰さんの対談を文春新書から発行したのが本書。発行は「新・戦争論」「AI時代の憲法論」の順だが、僕は時系列に逆らう形で本書を手にした。ある人物の著書を複数冊読むと、その人物の見方や特徴が掴めるので面白い。「この人ってこうだよね」的な。
内容は現代の「争い」についての対談であり、読み進めるごとに二人の知識量に圧倒される。よくこんな話ソラでできるな、と驚かされた。
全体をみて
僕たちがテレビでよくみる「池上彰」と本書で話す彼は別人のようだ。口調はやや厳しいし、こんなに批判めいた言い回しをする池上さんがすごく新鮮だった。「テレビ」という媒体の特性を理解して、また「テレビ」における自分の役割をきちんと理解しているのだろう。器用な方である。「テレビは出るものであって見るものではない」という冗談まで飛ばしていた。
以下、面白かったところについて。
p21 木村草太准教授
佐藤さんから先生の名前が出たときは思わずニヤリとした。「AI時代の憲法論」より前に親交があったという事だろう。自衛権に関する先生の見解をもっと知りたいので、他の著書も読んでみようと思った。先生の著書はもう半分くらい読んだけれど。
p67〜 主体思想
金日成から始まる北朝鮮の考え方。高校世界史で少し勉強して以来全く触れることがなかった言葉。恥ずかしながらどんな思想か全く覚えていなかったので、再び調べた。
主体思想(チュチェ思想)とは、金日成が独自に展開した国家理念であり、「人間は自己の運命の主人公である。その上で民族の自主性を保つために絶対的権威者の指導に伏すべきである」という考え方。大雑把なので、おそらく細かく見れば間違っているところが多いが、ご容赦願いたい。これは共産主義の亜種、もしくは解釈の一つだろうと僕は思った。
この思想の是非は置いておくとして、主体思想とキリスト教の親和性に言及した記述は、さすが佐藤さんだな、と思わされた。
p133〜 時間結婚
イランで発達した風俗システム。イスラムでは売春が禁じられているため、宗教罰を回避するために、商業的性交渉の前に結婚をし、終われば離婚をするやり方。一夫多妻が認められている国ならではのウルトラCである。当然批判もある。
p172〜 北朝鮮の食事情
佐藤さん曰く、食事に関しては韓国より北朝鮮の方が圧倒的に上だそう。僕は北朝鮮料理を食べたことがないが、なんだか意外だった。日本で市民権を確立したコリアンフードの次に来るのは、北朝鮮料理かもしれない。また、北朝鮮で「チョコパイ」が疑似通貨として使える話が面白かった。そんなことある?
固い話の間に挟まれるライトな話題が好きです。部活でサッカー毎日やってると、時々やる野良フットサルがすごく楽しく感じるみたいに。サッカーもすごく楽しいんだけどね。
p189〜 ダブルスタンダード
これはセンシティブな話題なので、僕の考えではなく本書の紹介である事を断っておきたい。
①日本は韓国が実効支配する「竹島」に関して、「領土問題があるので、しかるべき国際機関で仲裁を受けよう」「まずは問題を両国で認識しよう」という姿勢をとっている。
②一方で日本が実効支配する「尖閣諸島」に関しては「領土問題は存在しない」という態度を示しており、中国からの「問題認識」提案に応じていない。
佐藤さんはこのいわばダブルスタンダードな状態に対し、「戦略欠如の自然流」と評価を下している。
本書は2014年に出版されたものであるから、当時の米国大統領はバラクオバマだった。オバマに対して佐藤氏は、「教養があり、思慮深い故に決断が遅い」という趣旨のコメントをしている。そのせいで、中間選挙の時点で「レームダック(死に体)」になったとも。
佐藤氏同様にアメリカ国民がオバマにこうした評価をしているとすれば、トランプ大統領が選ばれたのにも納得がいく。彼は決断が早そうだ。
おわりに
高度な情報に触れるときには、「複数視点」かつ「オフィシャル・原典」なものに当たるのが重要であるのは当然だ。池上さんも佐藤さんも何社もの新聞を読み、たくさんの公的情報に触れている。たくさんの人に何かを発信できる立場にはそれだけ責任があるのだろう。僕も就活以来、少なくとも大手五社の新聞には目を通すようになった。
ある人からみた正義が他の人から見た極悪、なんて場面は日常生活でも大いに起こりうる。情報の溢れた世界で自分を見失わないために、これからもたくさんの本に触れていきたい。