図説 世界史を変えた50の食物
図説 世界史を変えた50の食物
はじめに
食べ物の映像を見たり、文章を読んだり、話を聞くのが好きだ。もしかしたら食べることそれ自体より好きかもしれない。こうなったのは「食生活改革」の名の下、毎日ほとんど同じ食事をとるようになってからだ。以降、おいしい料理は味覚で楽しむものでなく、視覚や聴覚で楽しむものになった。
ビル・プライス著、井上廣美訳「図説 世界史を変えた50の食べ物」(原書房)もそんなコンテンツの一つだ。
全体をみて
「世界史を変えた」という観点で、50の食べ物や飲み物をセレクト、たっぷりの写真やコラム付きで紹介してくれる一冊。読むだけでよだれが出てくる。
全然食べ物に関係ない話も多く、料理と素材がごっちゃになっているなどツッコミどころもあるけれど、「はじめに」を見る限り著者はそれも織り込み済み。とにかく楽しい本にすることを優先してくれている。
以下、気に入った食べ物について。
ビール
かつて公衆衛生が整っていなかった時代、ビールは清潔で安全な飲み物だった。エジプトのピラミッド建造労働者に対する報酬もこの飲料だったし、古くからビールは人間に欠かせない飲み物だったのだ。
今の時代でも、もちろんビールは必需品だ。近頃は足が遠のいたとはいえ、酒場での乾杯はビールがなくては始まらない。飲めば最高の気分になれる素晴らしい飲み物に乾杯。
シェークスピアの「冬物語」にはこんな一節があるらしい。「ビールを買って、一杯飲めば王様気分。」
チョコレート
多種多様に分岐した甘い食べ物。しかし、元をたどれば「カカオ」にいきつく食べ物。かつては飲料として楽しまれていた。マヤではおよそ1000年前から存在していたらしく、歴史の長い食品でもある。
現在カカオをめぐっては、フェアトレードの問題や利権の問題など、いくつかの歪みも指摘されている。これらを解決しながら、だれもがこの茶色い甘味を味わえるといい。僕はチョコレートがあまり好きではないので、これほど人々をが夢中にさせる理由がわからないけれど。
スパイス
コショウ、シナモン、ナツメグ、クローブ、、、世界にはたくさんのスパイスがある。いまや「スパイスのなくして料理なし」といってもいいかもしれない。
スパイスの歴史で好きなのは、大航海時代の話。東からもたらされる香辛料の価値が爆上がりしていた15、16世紀ごろ、航海にでてスパイスを積んで帰れば、航海費用の60倍の金銭を手にすることができたらしい。昔読んだ世界史漫画で、頭の悪そうな貴族が肉にコショウをたくさんかけ、家臣に「ああ、破産ですぞ」と言われているコマをいまでも覚えている。
個人的にはシナモンがすごく好きである。珍しく甘いものとの相乗効果が高いこのスパイスが使われる料理で好きなのは「チュロス」。テーマパークに行ってこれを食べない回はない。
ルンダン
西スマトラ州の高地で生まれた伝統料理で、今はインドネシア、シンガポール、マレーシアなどで食べられている。
牛肉をココナッツミルクとスパイスペーストで煮込み、水気がなくなったら完成。この本で初めて知った料理だが、実においしそう。ルンダンを提供してくれるレストランは東京にもけっこうありそうなので、いつか行ってみたい。
茶
みなさんはどの種のお茶が好きですか?和食によく合う緑茶、飲むとすっきりするウーロン茶、食後のティータイムといえば紅茶。インドで発明されたチャイティーはシナモンが使われることもあって、大好物である。
ビールがハレの飲料だとすれば、こちらはケ。日常に根差している。
このパートではおしゃれな言い回しがある。
かつて「日の沈まない帝国」とよばれた大英帝国では、お茶を楽しむことは文化の一つだった。(もちろん今もだが。)だから、当時の英国では一日中ティータイムが催されていたことになる。
コンビーフ
加熱した肉をほぐして粗塩で保存し、押し固めて缶詰した食べ物。最後に食べたのがいつか思い出せないけれど、たしかとてもおいしかった気がする。缶詰から食べる特別感も一役買っていたかもしれない。
この缶詰は軍用にも使われていて、いたる戦地で兵士の胃を満たしていた。過酷な戦場で食べるこの食べ物は、さぞかし美味だったことだろう。
おわりに
文章で読む食べ物は実物以上においしい。でも、本書を読んでその食べ物の来歴や長所を知れば、実際に食べるときの感動は倍増することだろう。