森の雑記

本・映画・音楽の感想

2020-01-01から1年間の記事一覧

夜しか開かない精神科診療所

夜しか開かない精神科診療所 はじめに 大きなストレスを感じたことがない。どちらかと言えば気楽な性格だし、小中高大とことさらに負荷の高い環境にいたこともなかった。小学生の時に1度人間関係で悩んだような記憶があるけれど、それだって今思えば些細なも…

自衛隊と憲法

自衛隊と憲法 これからの改憲論議のために はじめに 安倍氏が首相を辞任してからひと月あまりがたった。いまだに「菅首相」の響きには慣れない。それだけの長期政権だった。安倍前首相は周知の通り「憲法改正」を目指しており、賛否両論ありながらも、安倍政…

きまぐれ星のメモ

きまぐれ星のメモ はじめに 星先生1冊目のエッセイ集を読んだ。先月はまた別のエッセイ集「きまぐれ博物誌」を読んだが、これは2冊目のエッセイ集だった。順序が逆にはなったが、こちらもぜひ読みたいと思っていたところ、ようやく読むことができた。 星新一…

財務官僚の出世と人事

財務官僚の出世と人事 はじめに 「財務省にあらずんば」「東大法学部にあらずんば」こんな言葉がまことしやかにささやかれる、官僚の世界。言葉の真偽はさておき、中央省庁では日本きってのエリートたちが日々切磋琢磨していることに間違いはないだろう。中…

英国式 暮らしの楽しみ方

英国式 暮らしの楽しみ方 はじめに イギリスが嫌いだという日本人とあったことがない。和訳するとめちゃくちゃに長い正式国名、アヘン戦争や悪名高い二枚舌外交など、普通に歴史の授業を受けていればまあまあ悪い印象を持ちそうなのに。それでもやっぱり僕ら…

新聞の力 新聞で世界が見える

新聞の力 新聞で世界が見える はじめに 「新聞離れ」が言われ始めてから長い年月がたった。僕の同世代では日経電子版の無料コースに入っていれば、まだ「新聞に馴染みのある」方に分類されるくらいである。20代前半なんて就活時、社会情勢を眺めるために使う…

村上春樹 翻訳(ほとんど)全仕事

村上春樹 翻訳(ほとんど)全仕事 はじめに 村上春樹の小説を1冊しか読んだことがないのにこの本を読むのは、自分でもどうかと思う。翻訳に至っては1冊も読んでいないし。それでも綺麗な表紙と「翻訳」の言葉に引かれて本書を手に取ることを、寛大なファンの…

TENET

TENET はじめに クリストファー・ノーラン監督。超有名なのでもちろん名前は知っていたけれど、インセプションやダークナイトを友人にゴリ押しされながら、なんとなく彼の作品を観てこなかった。いつかはね、みたいな。 そう思っていると、新作「TENET」が公…

宇宙には、だれかいますか?

宇宙には、だれかいますか? 科学者18人にお尋ねします。 はじめに 夜空を見なくなったと思う。子供の頃は頻繁に流れ星を探したり、親に星座を教えてもらったりしていた気がする。オリオン座を見つけた時の得意げな気持ちだって覚えている。けれど大人になっ…

日本語作文術

日本語作文術 伝わる文章を書くために はじめに 何度も記事を書いていると、定期的に「文章術」系の本を読みたくなる。それはもちろん文章力を向上させるためである。だが一方で、内容をみて「当たり前だなあ」と思う部分が多ければ、自分の成長も実感できる…

日本人のひるめし

日本人のひるめし はじめに 「1日3食」は誰にとっても自明な食事習慣である。これには反論もあるだろう。「朝食は食べられないんですよね、」だがこれも、あくまで3食を基準にした上で「1食少ない」意識から来ている意見だ。やはり現代の僕らは食に関して、…

怪しい来客簿

怪しい来客簿 はじめに 岸本佐知子さんの「いま、これ読んでる」より、色川武大著「怪しい来客簿」(文集文庫)を読んだ。不思議なタイトルと風船のように太陽を持つ男の表紙、どちらも心がざわつく1冊である。 全体をみて 著者色川武大は一体どんな人生を歩…

脳は、なぜあなたをだますのか

脳は、なぜあなたをだますのか はじめに 僕らは絶えず意思決定をして生きている。夕飯のメニューとか、デートの服装とか、今日読む本とか。生きることは主体的な選択の連続である。 と思うだろう。 妹尾武治著「脳はなぜ、あなたをだますのか」(ちくま新書…

気のきいた短いメールが書ける本

気のきいた短いメールがかける本 はじめに 就活を経て、社会人に近づくとメールで事務的なやりとりをすることが増えた。メールでの連絡には慣れていないので、ついつい作成に時間がかかってしまうこともある。もっとスマートに、素早くメールが作れるように…

希望の政治

希望の政治 都民ファーストの会講義録 はじめに 小池都知事が再選を決め、任期を伸ばしたのが3ヶ月前。圧倒的な露出度、親しみやすさをもって余裕のある勝利を果たしたように見える。公約の達成度合いやコロナ禍対応など、もちろん課題は残るところだが、盤…

記者は何を見たのか

記者は何を見たのか 3.11東日本大震災 東日本大震災が起こったとき、僕は小学校6年生、卒業式練習の真っ最中だった。震源からはそれなりに離れた県に住んでいたので、揺れはそう大きくなかった。加えて僕が住んでいた場所は、そもそも自身が起こりやすい地域…

藤原道長の日常生活

藤原道長の日常生活 はじめに 「この世をば我が世とぞ思ふ望月の欠けたることもなしと思へば」 かの藤原道長が千年前に詠んだ和歌は、彼の尊大なイメージとともに多くの日本人が知るところとなった。歴史や古典の授業で彼の名前を聞かないことはないし、「大…

奇跡の論文図鑑

奇跡の論文図鑑 はじめに 大学生生活では数多くの論文を読んだように思う。それで、ものすごく当たり前のことをいうことになるけれど、やっぱり論文はすごい。何がすごいかと言えば、一つにはほとんどの論文は無料で読めることがあげられる。Ciniiで論文を検…

牡蠣の歴史

牡蠣の歴史 はじめに 「好きな料理は?」と聞かれると答えに困る。カレーライスも好きだし寿司も好きだ。ラーメンだって美味しいしたまに食べるステーキも絶妙である。そしてこれらの間に差があるかと言えば、ない。金額やロケーションに差はあれど、好きの…

東京日記 

東京日記 はじめに 詳細は忘れたがなにかの拍子に内田百閒という作家を知った。読みは「うちだひゃっけん」見たこともない漢字が使われているな、というのが最初の印象である。この作家さんは時を遡ること1971年に死去されているのだが、ファンが多いらしい…

憲法という希望

憲法という希望 はじめに この間塾で公民の授業をしていると、テキストに「集団的自衛権」についての記述を見つけた。少し複雑な概念なので、重要な理由も含めてきちんと教えようとしたら、ついつい喋りすぎた。大学で憲法を勉強したからと言って、公民系の…

銀河ヒッチハイク・ガイド

銀河ヒッチハイク・ガイド はじめに 先日紹介したTSUTAYAの企画「いま、これ読んでる」。これには森見登美彦先生意外にも多くの方々が選者として参加していて、翻訳家の岸本佐知子さんも名を連ねる。僕は「ネにもつタイプ」を読んで以来彼女のファンであるの…

ぼくらの仮説が世界をつくる

ぼくらの仮説が世界をつくる はじめに ビジネス書にはスピード感がある。比較的読みやすいから短時間でコンテンツ摂取が終わるし、書いてあることが現実に根ざしているから即効性もある。これがスピード感の正体であろう。だがしかし、多くの即効薬や短期間…

TVピープル

TVピープル はじめに 読んだことのない作家の本を開くときはいつもドキドキする。好きな作家の作品であれば、読む前からあらすじ等の事前情報が入ってくる。著者SNSをフォローしていたり、巻末に他作の紹介があったりするためだ。翻ってこれまで縁のなかった…

ボートの三人男

ボートの三人男 はじめに 今年の6月ごろ、TSUTAYAが面白い企画商品を売っていた。名前は「いま、これ読んでる」。著名な作家が文字通り「読んでいる」作品をセレクトして、セット発売する商品だ。参加する作家には敬愛する森見登美彦先生や岸本佐知子さんも…

きまぐれ博物誌

きまぐれ博物誌 はじめに エッセイを読むのは面白い。大抵のエッセイは著者の主観や見解がふんだんに塗されているからである。フィクションを通すと間接的に受け取らざるを得ない書き手の思想だが、エッセイならダイレクトに味わえる。それが大好きな著者だ…

ごはんぐるり

ごはんぐるり はじめに 料理は嫌いじゃない。特別おいしいものを作れるわけでもないし、ことさらにワクワクすることもないけれど、料理がめんどくさいと思ったことは一度もない。一人暮らしを始めて以来、当たり前のように自炊を続けていると、いつの間にか…

日本の妖怪

日本の妖怪 はじめに 「妖怪ウォッチ」が爆発的に流行ったことがあった。ポケモンにも言えることだが、やっぱり日本にはキャラものがウケる土壌があるんだと思う。その原点はもしかしたら江戸時代の妖怪ブームまで遡れるかもしれない。 民俗学の本を読んでい…

三島由紀夫レター教室

三島由紀夫レター教室 はじめに 最近は小説を読んでいなかった。ここ1ヶ月では森見先生の新作くらいしか読まずにいた。このくらい疎遠になってくるとなんとなく寂しくなるもので、小説を探すことに。久々に読むのだから歯応えのあるやつがいい。けれどしばら…

いちばんやさしい美術鑑賞

いちばんやさしい美術鑑賞 はじめに 先日、国立西洋美術館の「ロンドンナショナルギャラリー展」に行った。「ひまわり」を含む日本初公開の絵画たちを目の当たりにし、とても感動した。だがそれと同時に、「もっと楽しみたい」という欲求が生まれた。僕は芸…