森の雑記

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希望の政治

希望の政治

都民ファーストの会講義録

 

はじめに

 小池都知事が再選を決め、任期を伸ばしたのが3ヶ月前。圧倒的な露出度、親しみやすさをもって余裕のある勝利を果たしたように見える。公約の達成度合いやコロナ禍対応など、もちろん課題は残るところだが、盤石な体制は揺るがなかった。引き続き課題に取り組んでほしいという民意が反映された結果だろう。

 2016年に東京都知事に当選して以来、キャッチーなメディア対応と積極的な改革をもって指示されてきた彼女は、どんな理念をもって都政に飛び込んだのか。中公新書ラクレ「希望の政治 都民ファーストの会講義録」は、そんな彼女の立ち上げた政経塾「希望の塾」で行われた講義を書籍化したものだ。直近では「女帝」が出版され、矢面に立つことも多い政治家小池百合子は、一体どのようなモットーで動いているのか。本書を読めばその一端を知ることができる。

 

全体をみて

 講義をほとんどそのまま文章化しただけあって、非常に読みやすい。所々にみられるジョークも上品でタイミングが良い。あのメディア対応にも納得である。全体も200pほどしかなく、小一時間あれば読める。とてもコンパクトで平易な一冊だと感じた。小池さんって本当に話が上手ですよね…。

 以下、各章について。

 

第1章 私の原点

 まず「さすがだな」と思わされたのはこの「希望の塾」を開催するにあたって、託児所を準備したこと。「母親が勉強に専念するために」というアイディアは、なるほど僕には思いつかないものだった。子供がいる母が講義に参加する前提を「父親や家族に預かってもらう」「保育園、幼稚園に行かせる」と決めつけない姿勢は、配慮が行き届いている。

 それから自己プロデュース力の高さ。政治もビジネス同様「マーケティング目線」つまり客観的に周囲・時代の環境を見つめる力が大切である、と彼女は説く。小池都知事の選挙活動やファッション、発信方法、政策をみると、確かに時代をうまく捉えているような気がする。嫌われにくいというか。

 

第2章 予算とメリハリ

 ここで面白かったのは、都庁予算における「政党復活枠」の話。これは「政党」つまり都議会自民党などに与えられる予算枠のことらしい。知事がこの枠を作り、党派に与える。業界団体は本予算に入らなかった(知事が敢えて入れなかった)お金を、知事ではなく党派に「お願い」する。党派はこれに配慮する姿勢を見せ、暗黙で「選挙協力」を要求する。これによって知事は党派に恩を、党派は業界団体に恩を売ることができる。見返りとして知事は党派から都議会での協力を、党派は選挙での業界団体の協力を得られる。

 いわゆる「既得権益」の塊みたいなシステムだが、小池都知事はここに踏み込んだ。知事選の際(党としての)自民の支援を受けなかった彼女だからこそできた部分もあるのだろう。

 

第3章 都市をデザインする

 都市計画の話。ここで1つ面白かったジョークがある。国会議員が地域のお祭りなどに顔を出し、盆踊りを踊る姿を見て「政治家たるものもっと勉強しなさい」と思うこともあるだろうが、彼女に言わせれば盆踊りだって「お作法の一つ」。本音で地域の人と話すことで支持・信頼を得られるようになるのだそう。カラオケ大会に顔を出すこともしょっちゅうあるようで、「カラオケと選挙の共通項は、第一にマイクの善し悪し次第、第二にセンキョク次第」。

 それから彼女が尊敬する7代東京市長後藤新平の名言も。「金を残して死ぬ者は下だ。仕事を残して死ぬ者は中だ。人を残して死ぬ者は上だ。」これ。僕は高校の家庭科の先生から聞いたことがあるのだが、いい言葉ですよね。その人が先生になった理由らしい。

 

第4章 大小さまざまな改革を 

 自分を客観視する能力の重要度を説く小池都知事。そのために必要な「3つの目」について。

 ①鳥の目 物事を俯瞰で、マクロに見る目。

 ②虫の目 物事を細かく、ミクロに見る目。

 ③魚の目 群れをなす魚が水流に従うように、社会の潮流を見極める目。

この「3つの目」は政治家に限らず学生にもビジネスマンにも必要だろう。小池都知事の経歴を考えると、特に「魚の目」を入れるところが彼女らしい。

 さておき、こういう「3つの」とか「〇〇ファースト」とか、わかりやすいキャッチコピーを作るの、本当に「お手の物」って感じですよね…。

 

第5章 東京の希望、日本の希望

 東京がより競争力のある都市になるためには。そんなことを書いた章。

 

おわりに

 政治には「大義」と「共感」が必要である、そう彼女は言う。たしかに、正当な理念のもと、納得できる政策が行われなければ、支持は得られない。そしてこれは、政治のみならず、人と関わる時にも当てはまる。日々を希望をもって生きるために「Action!」しよう。