きまぐれ星のメモ
きまぐれ星のメモ
はじめに
星先生1冊目のエッセイ集を読んだ。先月はまた別のエッセイ集「きまぐれ博物誌」を読んだが、これは2冊目のエッセイ集だった。順序が逆にはなったが、こちらもぜひ読みたいと思っていたところ、ようやく読むことができた。
星新一「きまぐれ星のメモ」(角川文庫)。
全体をみて
相変わらず、というか「きまぐれ博物誌」よりも星先生の日常に迫った1冊だったように思う。お子さんの話や同業者との交流、アイディアを生み出す過程など、より先生の人となりに触れることができる。太るのを気にしているあたりも2冊目との違いがあっていい。
それから本書には「味わう」と題されたパートがあって、ここには食事のことを書いたエッセイが集められている。ごく個人的な見方だけれど、ご飯の話を上手、かつうまそうにかける作家にハズレはないと思う。森見先生しかり西加奈子しかり。
以下、好きなエッセイについて。
クマのおもちゃ
本書冒頭のエッセイ。これを読むだけで期待がものすごく高まる。ドイツ製のテディベアをずっと愛でているチャーミングさ、「テディ」の語源についてなど、たった一つのおもちゃから転がるように話が膨らんでいく。このおもちゃはすごく丈夫だそうで、この一事をもって星先生は「ドイツ人」を信用しているそう。
そんな浅はかな、とも思ったが、僕たちも同じことをしているに違いない。人の一面のみを見てその人に評価を下すことの多さたるや。
ナポリの弾痕
石造りが多いナポリの建物、その壁にはWW2における戦いの痕が残っているそう。そしてナポリといえば「ナポリを見て死ね」という観光によく使われる文句が有名だが、これは昔の指揮官か誰かが「決死の覚悟でナポリを占領せよ」的な意味で行ったのが最初だそう。戦いの痕を観光に生かす強かな姿勢はなんだか清々しい。
ライター
子供の頃からライターに憧れていたという星先生。父がタバコを吸わなかったせい、というが、確かにそうかもしれない。僕の父はタバコを吸うが、そのおかげでライターなど日常的に目にしていたから珍しくもなんともない。それどころかタバコの匂いがそれほど嫌いではない、というか好きになってしまった。ずっとサッカーをやっていたこともあって今のところ喫煙とは無縁だが、いつか手が伸びそう。
人がタバコを吸うのは「火」をつける瞬間の魅力にあり、と星先生は言う。
世界無味旅行
旅先で日本食ばかり食べてしまってとても残念だった、というエッセイ。内容はさておき、このエッセイですごいのはあっさり手塚治虫がでてくること。お二人は同年代に活躍されて、しかも交流があったんですね、、。銀さんとルフィのコラボを見ているような気持ちになった。
台所について
子供の頃、キッチンは確かに神秘の場所だった。火器、凶器があるから容易には近づけないし、母がそこから出てくると同時に食事が提供される。あのエリアはとても魅力的だった。自炊が当然になった今では全くそんなことを感じないが、子供の頃を懐かしく思う、そんなエッセイ。
胃の容量
様々な食べ物が出てくるエッセイ。ハムエッグとか、サンドイッチとか、お茶づけとか、文字で見ると実物以上に美味しそう。これらが登場する文脈がごくありふれた素朴なものであるところもいい。
保険の計算
保険金の支払いはどんどん早くなっているよね、そんな話から始まるエッセイ。これに関してはフリとオチがしっかり効いていて、普通にショートショートみたいだった。
おわりに
短いエッセイを人に読ませるには、まず文章が素朴なこと、それから書き手が著名なことが大事である。どちらも満たせる日は来そうにない。