森の雑記

本・映画・音楽の感想

自衛隊と憲法

自衛隊憲法

これからの改憲論議のために

 

はじめに

 安倍氏が首相を辞任してからひと月あまりがたった。いまだに「菅首相」の響きには慣れない。それだけの長期政権だった。安倍前首相は周知の通り「憲法改正」を目指しており、賛否両論ありながらも、安倍政権時には憲法が話題になることは多かったように思う。

 そして首相が交代した現在、改憲論議はどのように変化するのだろうか。もしくは変化しないのか。いずれにせよ、自民党が政権を持っている状態では「改憲」が取り沙汰されないことはないだろう。新体制を迎えた自民党憲法改正推進本部は各派閥の領袖を幹部に据えており、本気度が窺える。

 だからこそ僕らは「改憲」「憲法」について、今一度考える必要がある。なんとなく、じゃなくて意思を持って参政できるように。

 木村草太著「自衛隊憲法」(晶文社)は、憲法改正、特に「自衛隊」に着目し、議論を整理する本である。

 

全体をみて

 9条を中心とした「自衛隊」に関する議論、歴史、法解釈がすっきりと、順を追ってまとめられていた。木村先生の見解には賛否があろうが、純粋な「法律家」の意見としてはオーソドックスなものだと言えそう。

 右も左も関係なく、読むとけっこう面白いのではないかと個人的には思う。

 以下、興味深かった点について。

 

抱き合わせ改憲発議の禁止

 憲法改正には通常の法案より厳しい2/3ルールが設けられている。これは誰しもが知るところであろう。加えて「国会法」68条の3には「憲法改正原案の発議」を「内容において関連する事項ごとに区分」して行うことが定められている。

 これによって、9条と環境権とか、9条と表現の自由とか、性質の異なる改憲案が抱き合わせ(片方が隠されるような形で)発議することはできない。自民党改憲草案に対し、「こんなにやばい条文が隠されていて、それを教育無償化など聞こえのいい案で隠している!」的な批判を目にしたことがあるけれど、見え方はともかく国会での議論においてはそのようなことは起こらないはずだ。

 

軍事権のカテゴリカルな消去

 木村先生がよく持ち出す概念である。憲法には「軍事に関わる権限」を示す条文が一切見られないが、その理由を「わざと書かなかった」と考える概念のことだ。他国の憲法大日本帝国憲法には「軍事権限」に関する条項が確かに存在するのに、日本国憲法にはそれがない。「主権者国民が、内閣や国会に軍事活動を行う権限を負託しない」(p48)という宣言である。こうした考え方を「軍事権のカテゴリカルな消去」という。

 他国の憲法と見比べないと出てこなさそうなアイディアだと思う。

 

自衛隊員は行政官

 しばしば「憲法自衛隊のことは書いていない」という人がいるが、それは誤りである。自衛隊憲法72条が規定する「行政各部」に位置付けられる。だからこそ内閣総理大臣の指揮監督下に置かれるのだ。

 

武力行使・武器使用・戦闘

 自衛隊法では他の国家相手の実力行使を「武力行使」、国家以外のアクターへの実力行使を「武器使用」と明確に文言を使い分けているそう。また、法律用語の「戦闘」は国家同士の戦いを意味するそう。

 こうした文言に関し象徴的なのが2017年の自衛隊日報問題。ここでは、当時の稲田防衛大臣南スーダンで起きた戦いを「戦闘行為」ではない、と答弁した。しかしその後隠していた日報から「戦闘」という言葉が出てきて問題になった。

 この事案について、「南スーダン自衛隊が相手にしたのは国家ではない」という前提を日本政府がとっているため、戦いは大臣の行った通り法律用語の「戦闘」には確かにあたらない。だから答弁は法律的に正しかった、と木村先生は言う。

 

周辺事態・重要影響事態・存立危機事態

 なんかこの辺の「事態」系の用語って曖昧じゃないですか。少なくとも僕はあいまいでした。

 ここに関し、本書を読んだ自分の理解が正しければ、

①まず外国軍の後方支援につき

従来 周辺事態で出動可能 そうでなければ特別措置法が必要

2015安保法制後 重要影響事態で出動可能

②次に防衛出動の要件につき

従来 武力攻撃事態 切迫事態に出動可能

2015安保法制後 存立危機事態で出動可能

とまあ、こんな風に分けられると思う。各「事態」の定義については本書を読んで欲しい。言葉が使われるシチュエーションは各々限定されている点にご注意。法律を考えるとき言葉の定義や射程って本当に重要。

 

解散と憲法53条

 現行憲法下では、内閣に「解散権」が広く認められている。(ように読める)が、これは憲法53条の臨時国会招集権との関係で微妙、というお話。確かに。

 

おわりに

 読んだそばから記事を書いたので、正直あっているか不安な部分もあるが、ご容赦ください。憲法に関しては学ぶ姿勢、考える姿勢をとり続けることが大事なのではないか、と思っているから、これからも勉強を続ける所存です。なんの話。