森の雑記

本・映画・音楽の感想

宇宙には、だれかいますか?

宇宙には、だれかいますか?

科学者18人にお尋ねします。

 

はじめに

 夜空を見なくなったと思う。子供の頃は頻繁に流れ星を探したり、親に星座を教えてもらったりしていた気がする。オリオン座を見つけた時の得意げな気持ちだって覚えている。けれど大人になったからか、東京に住み始めたからか、夜に上空を見上げることはめっきり減った。それに気づいたのは書店でウィスット・ポンニミットの絵を見かけたからだ。

 真っ黒な表紙に白とグリーンで描かれる、くるり琥珀色の街、上海蟹の朝」や、みなとみらいスケートリンクでお馴染みの、なんとも可愛らしい彼のイラスト。語りかけるようなタイトル。一瞬でノスタルジーを呼び寄せる魔法の1冊がそこにあった。出版社も河出書房だから安心。次はこれを読もうと決めるのに、そう時間はかからなかった。

 佐藤勝彦監修、縣秀彦編集の「宇宙には、だれかいますか」について。

 

全体をみて

 本書は科学者18人に、宇宙にまつわる8つの質問を投げかけ、その回答を記したものだ。「地球生命はどこからきたのでしょう?」「知的生命体がいる世界には、どんな社会があると思いますか?」など、素朴ながら難しい問いに十人十色な答えが聞ける。

 専門家ということで、ある程度共通の見解(例えば、電波を使った地球外生命体との交信可能性など)もみられるが、「生命の起源」に関する質問は意見に大きなばらつきがあるのが面白い。

 以下、面白かった記述について。

 

なんかヘンな動き

 高井研さんは「生命の定義」に関する質問に、「動き」を見れば生命かどうかがわかる、と回答する。生命の定義には膜、代謝、生殖など様々なものがもちろんあるけれど、僕らはあるものを見ればそれが生き物かどうか「直感的に」わかるそう。これは専門家と一般人にほとんど差がないレベルで備わった能力だと、彼は言う。

 確かにいくら精巧なアンドロイドや獣型ロボットを見ても、僕たちはどこかに違和感を覚える。その正体を言語化するのは難しいけれど、「なんとなく」わかってしまうものだ。それを「なんかヘンな動き」と表すのは言い得て妙である。

 

ブレイクスルー・メッセージ

 地球外へ向け、地球を代表してメッセージを送るプロジェクトのこと。しかし須藤靖さんはこれを「危険な行為」だと考える。

 惑星外にメッセージを送る、これだけ聞くと夢とロマンに満ちた活動のように思う。そう言う類SFをよく目にするし、宇宙版ボトルメールには誰もがワクワクしてしまうでしょう?でもこれは、知らない誰かに自分の居場所を教える危険な行為なのかもしれない。もし受け手の文明が高度なら、電波を逆探知して地球の場所を割り出すなんて造作もないだろうし、その相手が友好的とは限らない。不特定多数に居場所を示すなんて自殺行為ではないか、と彼は言うのだ。

 この視点は全くもって新しい。地球外生命体を本当に信じていないと出てこない発想なのかもしれない。

 

鳥海光弘さん

 本書を読んでいてこの人のパートにたどり着いた瞬間、「あ、流れ変わったな」と思った。めちゃくちゃ硬い文調、ロジカルな構成で回答をしていながら、なんだか距離感が近い。ザ・科学者的な物言いである。ここまでの回答者は初学者に歩み寄ろうとしてくれていたような気がするけれど、それは悪く言えば読者を下に見ているからだ。でも鳥海さんは違う。とてもニコニコしながら、まるで友人のように語りかける彼の言葉に圧倒されること間違いなし。

 また彼は、地球外の生命体と「コミュニケート」するには、まず地球上の生物と「コミュニケート」できないといけない、そんなことも言う。確かに草木や動物ともまともに意思疎通できていないのに、宇宙人と話そうだなんておこがましい気も。

 

Wow!シグナル

 オハイオ州立大学が1977年に宇宙から強い電波を受信。観測したプリントに「Wow!」と書き込んだことからこの電波を上記のように呼ぶそう。由来も名前も一級品に微笑ましい。

 

マルチバース

 物理法則を突き詰めると、あまりにも我々に都合の良すぎる法則に出くわす。なんとも不思議なことだが、この地球のあり方は「生命が生まれるよう」デザインされたとしか思えない微調整が施されているように思われる。これがいわゆる「奇跡の物理法則の微調整」的な考え方である。

 こう言う話を聞くと、確かに地球も1つの生命体のようだと感じたり、ID論で言う「偉大な知性」みたいなものを信じたくなったりしますよね。

 これに反論するのが「マルチバース」の考え方。「宇宙は無数に存在し、物理法則もその数だけ存在する。しかし1つの宇宙、1つの物理法則に生きる我々は、外の法則を感知しえないから、あたかも我々のみに当てはまる法則を『都合よく』デザインされたかのように感じる。」誤っている部分もあるかもしれないが、これがマルチバース的な概念のはずである。

 この概念にはものすごく納得がいく。こういういとも簡単に常識を飛び越えた発想ができる人って、どんな思考回路を持っているんでしょうね。それこそ宇宙人的というか。

 

おわりに

 上記以外にも、各アンケートの最後に「コミュニケーションを撮ってみたい地球外知的生命体の姿」イラストがあったり、ウィスットの短編漫画があったりと盛り沢山の本書。直球的な文系の僕でも十分に楽しむことができた。

 時々空を見てみようかな、と思う。