森の雑記

本・映画・音楽の感想

面白いけど笑えない中国の話

面白いけど笑えない中国の話

 

はじめに

 武漢発と言われることの多い新型コロナウイルスが世界を席巻してから、もう半年がたとうとしている。感染拡大の責任を声高に追求する米国でなくとも、武漢だけでなく、中国全土の公衆衛生状況が危ういことは多くの国が認識するところだ。

 さて、「一帯一路」「真珠の首飾り」様々な戦略をもって世界に影響をもたらすあの国が、どのような実態を持つか紹介する、竹田恒泰「面白いけど笑えない中国の話」は、2013年発行の本である。様々なニュースを取り上げつつ、興味深く中国を掘り下げる本書は、米中対立が強まった今こそ読む価値を持つのかもしれない。過去を学べば未来が変えられることは中国最大のライバル米国の映画「バックトゥーザフューチャー」からも分かる通り。というわけで今回は、7年ほど前に中国の現実に迫った本書について書こうと思う。

 

全体をみて

 自ら保守派の看板を掲げ、いわゆる右派に分類される竹田先生は、多くのメディア露出によってかなりの知名度を持っておられる。血筋や攻めた言論でたびたび話題をさらうことも多いけれど、話し方それ自体は軽快で面白い。本書は冒頭で「ズッコケ注意」と書いている通り、中国の腰を抜かすような出来事が、新聞記事を元に歯切れ良く紹介される。

 以下、各章気になった部分について。

 

第一章 中国社会、不幸せのレシピ

 「はじめに」でも書いたような衛生問題や、人権問題の実態を紹介する章。

 「窓を開ければただでタバコが吸える」とネット上で揶揄されるほど大気汚染が深刻な中国。天然水のペットボトルに黒い浮遊物があったり、豚の死骸が川に放置されていたりと、とにかく驚くべきニュースが多い。加えて、大学で「報道の自由」を教えてはならないといった指示を出すなど、表現を中心に多くの規制も行われているようである。新聞で紹介される出来事なので、フェイクではないと思うが、なんともひどい話である。幸福は他者と比較する物ではないけれど、それでも日本に生まれたのは幸せっだったのかもしれない。

 

第二章 だから付き合ってはいけないとあれほど……

 中国とのお付き合いを経済的な面からみる章。著者曰く、中国との付き合い方は「眼が合えば挨拶する程度で十分」。

 ロンドン名物のタクシー「ブラックキャブ」を製造する会社が中国資本と提携した話が面白い。と言っても面白かったのは、資本参加後の車が品質低下を起こした話ではなく、イギリスのタクシードライバーの地位について。英国ではタクシーに厳しい台数制限があり、運転手になるのはちょっとした利権を手にするのと同義だ、という解説が興味深かった。いつかの脳の実験でロンドンのタクシードライバーを対象にしたものがあったけれど、ある意味でその対象は小金持ちに絞られるから、記憶に与える要因が変わってしまう可能性もあるな、と思った。(タクシードライバーだから記憶力がいいのか、お金があって健康な生活をしているから記憶力がいいのか)

 

第三章 中国は次の覇権国家になりうるか

 パックスローマーナ、パックスモンゴリカ、パックスアメリカーナ…これらに続く「パックスチャイナ」の実現性を考える章。共産党ブレーン、イエンさんがなかなかのキレモノ。「中米の相互信頼という幻想は捨て、信頼なき協力を模索するべき」という主旨の発言には学ぶところがある。

 

第四章 とどまることを知らぬ領有権の主張

 尖閣問題を中心に中国が各国との間に抱える(意図的に問題にしようとする)領土問題を扱った章。竹田先生の考えはなかなかに過激である。これが出版されたときより中国の軍事力は遥かに強まっている。

 

第五章 各国は中国包囲網を敷くべし

 この辺りになってくると政治的にハードな話題が増える。個人的な意思表明は避けようと思うけれど、一つ「ニートラップ」についての感想を書きたい。

 中国政府がよく使う手(だとされる)ハニートラップ。中国に過度な融和姿勢をとると、その政治家がハニートラップに引っ掛かったのでは、なんて言われることもある。この点に関して、もしハニートラップが実在するのであれば、日本人は欧米、アフリカ諸国に比べて圧倒的に不利だと思う。中華系のビジュアルってヨーロッパの人より日本人の方が魅力を感じやすいだろうし。くだらないこと書いてすみません。

 

第六章 中国共産党の新体制を読む

 習近平(シージンピン)体制への変遷を扱う章。中国が国家として持つ軍隊は存在せず、「人民解放軍」の名で共産党が軍を持つ形であることを知っている人はどれくらいいるのだろう。僕は知らなかった。

 

終章 鼻持ちならない隣人

 竹田先生の所見をまとめて本を結ぶ章。中国がハワイの領有を視野に入れている、という話には仰天。

 

おわりに

 この内容を見ると、著者は相当中国が嫌いなんだな、とお思いになるかもしれないが、本の中でも書いている通り、竹田先生は中国語を話すし、2013年時点で250回以上も中国に出かけているそう。確かに個人的にも、中国人の友人も多いという彼の発信だからこそ説得力がある話も多かったように思う。

 さて、昨日「金曜ロードショー」でやっていたバックトゥーザフューチャーでドクが言うように、未来は自分で切り開くモノだ。であれば、今は正負に多様な情報を知って、先に備えるのが大事だと思う。右派左派を超えていろんな知識を得たい。

 ちなみに、ビフのモデルは、米中対立の主役、アメリカ大統領ドナルド・トランプらしい。この蘊蓄が必要になる未来はきっとこない。