森の雑記

本・映画・音楽の感想

トヨタ流「改善力」の鍛え方

トヨタ流「改善力」の鍛え方

 

はじめに

 緊急事態宣言が全国で解除された。これから少しづつ経済活動も再開される。これにより、「新しい生活」と同時に「新しい経済」も形作られるのだろう。今までに培った企業的ノウハウが役に立たなくなることも考えられる。建築物やシステムなど、ハード的側面のみならず、意識やメンタリティなどソフトな面も転換を余儀なくされていくはずだ。

 この状況に対応していくために、我々は何かを学び、変えなくてはならない。けれど、その「何か」がわからない。今後ウイルスと人の関係がどうなるかを予測しきるのは難しいし、前例もない。未来にも過去にも具体的な学びを提供してくれる題材がほとんどない。しかし、これまで人類が「未知」と遭遇したときに必ず行ってきたことがある。それは、過去の学習を抽象化し、今に当てはめる作業だ。フェルマーの最終定理しかり、あいみょんの楽曲しかり、新たなものを生み出す時、常に人は過去からヒントを得てきた。であれば、2004年、もう15年以上も前に出版されたこのビジネス書を、今更読むことにも意味を見出せよう。

 

全体をみて

 章ごとのテーマに沿って、「トヨタ式」の企業体制を導入した企業や、有名企業のエピソードをいくつも紹介する本書。いくつもの事例と学びが小分けにパックされているので、空き時間などに少しづつ読み進めることができる。またこの本を貫くテーマとして、「人間力>データ」があり、ページを追うごとに数値を過信しない重要さを掴むことができる。以下、各章好みのエピソード。

 

1章 「すぐ」をクセにしよう

 章の内容はタイトルの通り。

 この章の中にある、「悲観的に見て楽観的に動け」のパートが面白い。パート内で、人間はほぼ確実な予測(高齢化による)には問題を先送りし、あいまいな予測(○○は何個売れるか)に対して気を揉む、という話がある。確かに、就職活動や受験など、普通に生きていたらほとんど確実に到来するであろう出来事に対し、長期的な目を持って努力を重ねられる人は多くない。しかし、「志望校、志望企業に受かるか」など、予測も立てられないことに気を病む人は明らかに前者より多い。

 

2章 「頑張り」より「ムダどり」せよ

 ある資格マニアの人の話が面白い。

 Bさんは資格を取得することに情熱を燃やしており、計10あまりの資格を保持していた。口癖は「資格があればいざというときに独力でやっていける」。そんなBさんだったが、会社の経営状況悪化によりリストラを受けてしまう。上司からは、「君は解雇されてもやっていけるだろう」と言われる。想定もしていなかったことに驚くが、「なんとかなるだろう」と楽観的な気持ちで転職活動に臨む。しかし結果は芳しくなかった。Bさんは実務経験もないタイトルホルダーであり、コネもカネもなく、評価されない。資格とはなんのためにあるのだろう。

 この話をして、資格を「足裏についた米粒」と評した人がいる。「取らないと気持ち悪いが、とっても食べられない」。

 

3章 「可能か」より「必要か」で考えよ

 人が守るのは「決められた」ルールより「決めた」ルールである、という話に納得した。押しつけられたものを受け入れられる人は少ないが、策定の経緯に関わったルールには従うことができる。政治って根本的にはこの理屈で成り立っているのに、何かを押し付けられるものだと感じる人が多くないですかね。選挙には行きましょう。

 

4章 「会社が」で発想するな

 何かトラブルが起こった時、まず他者の不備を責めるのではなく、自らを見つめ直すことを説明するパートがある。「7つの習慣」と同じ志向である。

 

5章 つねに「人」を巻き込め

 あまり印象的だったパートがなかった。この辺りで章題には必ずカギカッコがついていることに気づく。

 

6章 「リカバリー」で勝てばいい

 最近はメーカーが店頭支援の会社を設立して、売り場の演出に取り組むことが増えてきている、という記述に目をひかれた。この本でいう「最近」は2004年のことなのだけれど、今となってはこの手法はごく一般的になっている。じっさい、僕が昨夏にインターンシップを受け入れていただいた、プリンターやカメラを製造するメーカーC社の関連マーケティング社では、営業の名の下売り場の仕組み提案を体験するワークがあった。時が立てば、「新しかった」ことは当たり前になる。当然だけれど。新しい生活様式もいつかは当たり前になっていくのだろうか。

 

7章 もっと幸福になろう

 幸福にカギカッコ付けないんかい。

 ある会社に出向した人が、その社の「困りごと」を聞いて周り、信頼を勝ち取った、という話が書かれるパートがある。おそらく現在は困りごとを尋ねるのではもう遅くて、相手が気づいてすらいない「不便」を見抜き、改善のアプローチをとることが必要になってくるのだと思う。言葉に出る「困りごと」が、ある問題の氷山の一角に過ぎないことは多々ある。

 

おわりに

 日本を代表し、時価総額も日本一を誇る会社、トヨタ。先日は東富士に実証(研究)のため、「コネクティッドシティー」を設置することでも話題になった。こうした新しい試みはきっと長年の蓄積から生まれるのだろう。古きを温て、ではないが過去は切り捨てるものではなく、学ぶものなのかもしれない。