森の雑記

本・映画・音楽の感想

マンガ認知症

マンガ 認知症

 

はじめに

 今の日本は超高齢社会である。2007年に高齢化率は20%を超え、もはや社会の高齢化は恐れて対処するものではなく、現実として向き合い、付き合っていくものになった。介護や認知症、自動車事故など高齢者にまつわる多岐にわたる論点は未だ明確な答えを見いだせていないし、若い世代にとっても他人事ではない。

 ニコ・ニコルソン、佐藤眞一著「マンガ認知症」(ちくま新書)は、文字通り「認知症」を漫画と文章でわかりやすく伝える本である。誰もが「明日は我が身」、認知症をざっくりとでも理解しておくことは、親族の介護だけでなく、自らの老後に向けても必要なのではないか。

 

全体をみて

 本書は章ごとに①ニコさんのコミックで概要→②佐藤先生の解説、という順で進んでいく。各章「徘徊」「運転」など事例で分けられており、認知症にまつわるあれこれをケーススタディで学ぶことができる。先に漫画形式で大枠を頭に入れてから、より詳細な説明を読むので頭に入ってきやすい。説明が上手な人はまずフレームを作ってから中身を詰めると言うが、まさにそんな感じ。

 それから各章の最後にある要点のまとめページがいい。各事例ごと、意識する3つのポイントが章のおわりに書かれることで、章の総復習ができる。コミック→解説→まとめ、のスリーステップが非常に効果的。

 以下、特に覚えておきたい箇所について。

 

地域包括支援センター

 公立の中学校区ごとにある施設。ケアマネージャー、社会福祉士の方、場所によっては看護師の方がいて、高齢者にまつわる相談を受けてくれるようだ。この場所が地区ごとに存在しているのを知っているだけでも気が楽になる。介護などで途方にくれる前に、まずは連絡してみよう。

 

「お金を盗られた」

 認知症の症状として、しばしば「お金を盗られた」と言い出す方がいる。これは脳機能の低下が原因で、記憶や認知力に障害が生まれることで起こることだ。

 こうした症状がみられる場合には、①「お金は大事だよね」と同意しつつ探すよう促す②介護者が疑われないよう自分で見つけさせる③興奮状態にあったら声をかけず落ち着くのを待つ この3つが有効だそう。

 作話、虚記憶と言って「自分が物をなくした」という事実を認められず、偽りの記憶を保管することで自己防衛をする脳のシステムによってこの「物盗られ妄想」が起きるので、それをきちんと理解した上で冷静な対処をしよう。

 

同じことを何度も聞かれる

 物盗られ妄想と同じく、認知症になった方は同じことを何度も聞いてしまう。こんなとき、最初の2、3回はまともに取り合えても、数が重なると邪険に扱ったり無視してしまいそうだ。

 こんなときには①あとで確認できるよう、メモなどに残す②食事を何度も催促されるときは、食べ終えた食器を残しておく③相手が「拒否されている」と感じないよう、「さっきも聞いたでしょ」などとは言わない ことが大切。

 記憶や認知に問題があるので、その空白や不安を補う行動を取ろう。

 

高齢者の自動車事故=認知症

 佐藤さん曰く、「高齢者の事故原因は認知症より単に老化が原因の物が多いのではないか、」と。確かに、そもそも老化で視野が狭くなったり、体が動きにくくなったりするので、認知症とは関係なく事故は起きやすくなりそう。事故=認知症、と早合点するのはよそう。

 

取りつくろい

 認知症になると「計画」が立てられなくなったり、相手の話がうまく理解できなくなったりする。けれどそれがバレてしまうとプライドが傷つく。そこで発生するのが「取りつくろい」。セールスマンの勧誘を理解できずに、分かったふりをして印鑑を押してしまい、高額な商品を買ってしまうのはこうした「取りつくろい」の事例の一つと言えるだろう。

 客観的にみて理解し難い行動をしている方がいれば、それはこの「取りつくろい」症状、つまり自分のプライドを守るための行動なのかもしれない。このことを理解し、自尊心を傷つけない形で対処したい。電話や玄関に「わからないことはその場で決めず、家族に相談する」と書いたメモを貼っておくとか?

 

徘徊

 言葉から高齢者が目的もなく彷徨っている様子を想像してしまうが、佐藤先生曰く、これは誤解を呼ぶ名称だそう。偏見の助長を防ぐべく、最近は「一人歩き」と呼ばれるようにもなってきてるんだとか。

 この「一人歩き(徘徊)」には2種類ある。まずはアルツハイマー認知症の方に多い、「目的があって家を出たものの、途中で行先や道順がわからなくなってしまい、仕方なくウロウロする」場合。二つ目は前頭側頭型認知症の方に多い、「同じ行動をし続けたい衝動で、とにかくぐるぐる歩き続けてしまう」場合。後者の周遊的な徘徊には、いつもいくルート近くのお店の人に声をかけておくとかの対処ができる。前者に関しては漠然と「帰りたい」とか「昔の場所に行きたい」とか目的地が曖昧なことも多々あるので、出かけそうな場面に出くわしたら「途中までついていって話しながら気をそらす(無理に止めない)」などの対処が有効。

 

メンタリティ

 認知症になった親族を持つ人は、「あんなに〇〇だった人が別人のようで、何を考えているかわからない」という悲しみを抱えることが多い。これはとても辛いことで、元気で聡明だった時代を知っていればいるほど精神的負担が大きくなることだろう。

 しかしこれは「介護される側」も同じなのである。認知機能の低下で相手が何を考えているかはわからなくなるし、そもそも相手が誰なのかもわからない。さらには自分の行動や感情もうまく制御できない。認知症の方々は「わからない」ことだらけの世界で生きている。

 お互いに何もわからないのだからコミュニケーションがうまくいくはずもない。だからこそ、貼り付けたものでもいいから、まずは笑顔で話を聞くこと。認知症の相手に信頼感を持って少しでも「わかる」人になること。こうした姿勢が必要。

 

おわりに

 家族と自分の将来のために、本当に読んで良かった一冊。多くの人に勧めたい。