森の雑記

本・映画・音楽の感想

察しない男 説明しない女

察しない男 説明しない女

 

はじめに

 最近の世相からすると、信じられないようなタイトルの本「察しない男 説明しない女」を読んだ。「男はこう」「女はこう」みたいなレッテルを貼るのには反対だが、本書は2014年にディスカヴァートゥウェンティワンから出版されたもので、つまりかなり前の出版物であるから、致し方ない部分もあるかもしれない。

 いつだったかワイアードの記事を読んで「男性脳」・女性脳」といった分類への批判・反証を知ってから「男は理性、女は感情」みたいな見方には懐疑的になった。生活をしていても自分の考え方は「いわゆる」女性的なものだな、と思うことも多い。

 だから、五百田達成さん著の本書には少々疑問の目を向けて読み始めた。

 

全体をみて

 性別を元に思考の違いを描写していく本だと思ったら少し違う。本書はまず冒頭のチェックリストを使い、自分のコミュニケーションタイプが「男タイプ」「女タイプ」のいずれに該当するかを確かめるところから始まる。つまり本書はストレートな性分類をしていないのだ。

 タイトルと表紙に騙されたが、これはいいことだと思う。書き方や装丁の雰囲気を変えれば、十分今でも通用しそう。

 その上で本書は、「自分と異なるコミュニケーションタイプ」とうまくやりとりする方法を教えてくれる。「異性と」ではない。だからこそ本書は性差の本としてではなく、コミュニケーションの本として読めばけっこうためになる。

 ただし、著者の書き振りは男女で「脳梁」の大きさに差異があることを前提にしているところがあるので、その辺りには注意されたい。

 以下、面白かったところ。

 

どっちが先輩?

 いわゆる男性タイプの思考をする人間は、縦社会の慣習を大事にする。年次や肩書き等は、こうした社会で重んじられるもののうちのひとつである。これがはっきりしていれば、この思考タイプの人間はコミュニケーションが円滑になるし、この手の人間はこうした話をするのが好きである。というのが著者の弁。

 目上の人と話したり、初対面の人と話すときは、(相手が男性思考タイプであれば)さりげなくこの辺りを聞いてみよう。会話が弾むかもしれない。共通の知人や同僚がいたりすれば、当該人物と話し相手の関係を深掘ってみてもいいだろう。

 

変身願望

 いわゆる女性タイプの思考をする人間は、「新しい自分」「いつもと違う自分」に憧れる。幼少期にままごとを好むのもこのタイプの人間。

 こうしたタイプとコミュニケーションをとる時には「いつもと違うあなた」を演出するのがいいらしい。真面目な女性をお姫様扱いしてみたり、弟キャラの男性を兄貴分扱いしてみたり、、、こうすることで会話が弾み、より楽しく関係を深められるかも。

 

分析

 「男は分析されたくない」「女は言い当てられたい」と題するパートでは、男性タイプ思考と女性タイプ思考の自意識の差が語られる。前者は自分の性格や行動原理、遍歴を詳に他者が語るのを嫌い、後者は「こういう人」だと指摘されるのを好む。

 「分析」という行動はえてして上からものを言う形になるので、男性タイプ思考の人間からすればこれほど不愉快なことはない。だからこのタイプと話すときは、相手に「自己分析」をさせるのが良いだろう。注意するときやインタビューをするとき、こちらから「それって〇〇ですよね」と相手に印象を提示するのではなく、「それは何故ですか」と自ら話してもらうのがいいだろう。

 逆に女性思考タイプと話すときは「〇〇さんはこういう人なんですね」「意外と〇〇だなあ」と、ラベリングをしてみるといいかもしれない。「激レアさん」の若林研究員になりきろう。

 

ストーリー仕立て

 女性思考タイプには、結論ファーストの話し方よりプロセス重視の言葉が伝わりやすい。要求をして理由を列挙するのではなく、その結論に至るまでのストーリーを話せば、頭に入りやすいので、そうした会話を心がけよう。

 

おわりに

 冒頭でも書いたが、この本は「異性と」話すための本ではなく、「自分と異なるコミュニケーションタイプの人と」話すための本である。

 当初は自分と異なる思考法の人に合わせて会話するのは、テンポも悪く苛立つことがあるかもしれない。しかし、元来コミュニケーションとはそういうものである。他者理解と受容、この2つができなければ性別を問わず会話がうまくいくことはない。

 であれば、これを学ぶために、本書を読むことにも十分価値はあるだろう。