森の雑記

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マンガでわかる 「西洋絵画」の見かた

マンガでわかる 「西洋絵画」の見かた

 

はじめに

 美術の本を読むのはこれが3冊目だ。全て入門書というか、門戸を広くとった本であり、これらを読んでいると少しだけ美術にも明るくなった気がする。

 今回は誠文堂新光社発行、池上英洋監修、まつおかたかこイラスト「マンガでわかる西洋絵画の見かた」について。

 

全体をみて

 3冊読んだ中では一番わかりやすい本だった。というのも、本書はイラストやマンガがふんだんに盛り込まれていて、文字での説明はそこまで多くないのがその理由だ。読み込むことなく、ビジュアルに情報がとれるとっつきやすい本だと思う。

 内容は全6章、時代ごとに西洋美術の変遷を追う形式である。各章は「導入」「名画を読む」「巨匠ストーリー」の3つに分かれていて、ストレスなく読み進めることができる。巨匠にまつわるゴシップ、名画の見所などがすっきりとまとめられており、多くの人にお勧めしたい。

 以下、各章気になったところ。

 

第1章 ルネサンス

 十字軍をきっかけに起こった文芸復興運動期の美術を紹介するところから、本書が始まる。レオナルドダヴィンチ、ボッティチェリ、ラファエッロ、、、世界史の教科書で目にしたスーパースターたちの美術品はやはりどれも美しい。

 この章の「名画の読み方」ではかの「モナリザ」が紹介されるページがあり、そ子にあった記述に驚いたのでご紹介。実はこのモナリザ、モデルは商人の妻、リザ・デル・ジョコンドさんなのだそう。当時の記録から明らかになっているらしい。「モナリザ」はなんとなく「誰を描いたかわからない」的な謎があると思い込んでいただけに驚き。

 もう1つ、この章で一番好きな絵を紹介したい。それはボスの「快楽の園」。観音開きになっている三連作品には、様々なモチーフが散りばめられており、なんとも狂気的。明るい色彩が逆に不気味な作品である。ミッドサマーっぽい。中央の絵、奥のほうにあるピンク色の建物は怪しい新興宗教の建築物のよう。キリスト教世界を表現した絵に新興宗教っぽいという形容詞を用いるのは、我ながらどうかと思うけれど。

 

第2章 バロックロココ

 優美なサンスーシ宮殿お馴染みロココ様式と、ダイナミックなバロックの美術、どちらもルネサンス後に登場したムーブメントである。

 この章で好きな絵画はフラゴナールの「ぶらんこ」。森の奥、神秘的な世界で戯れる男女を描いた作品には、なんとなく性のニュアンスを感じる。光の表現はとても柔らかだし、ぶらんこに乗る女性をみる男の顔はなんとも助平そう。動的なものの一瞬を切り取って静謐に仕立て上げるフラゴナール先生、あっぱれ。

 

第3章 新古典主義ロマン主義

 この章は「導入」を紹介したい。まず新古典主義について、柔らかで優美なロココへのアンチテーゼとして登場したこのイデオロギーは、やっぱり理性的でかっこいい。しかし、真面目一辺倒では飽きてしまうのが人間の性。アンチテーゼへのアンチテーゼとして、感情、完成にしたがったロマン主義が誕生、こちらも芸術界を席巻する。このように、美術は反骨心から成立していくことが「導入」からわかる。

 前者の代表作品として有名なのは「球技場の誓い」「グランドオダリスク」、後者で有名なのは「民衆を導く自由の女神」など。

 

第4章 写実主義から印象派

 フランス革命後、万国博覧会が開催されるなどグローバル化が進む西洋。価値観は相対化され、自由な気風は濃くなっていく。そこで生まれたのが「印象派」である。これはモネの作品を見た批評家が、「印象にすぎない」とこき下ろしたところから来ている名前。

 この章最初に登場する「巨匠ストーリー」ではクールベが紹介される。冒頭に彼の自画像が載せられているが、至極イケメン。知性、品性をふんだんに感じさせる色男である。顔ファンもさぞ多かろうが、実家は金持ち、身長も高いというまさに日の打ちどころがない。絵もうまい。

 それからゴーギャン。晩年タヒチに移った時に描いた絵「我々は何処から来たのか、我々は何者か、我々は何処にいくのか」という長ったらしい名前の作品が素敵。なんとなく月と6ペンスを彷彿とさせる。

 

第5章 世紀末芸術

 この章で注目したいのは、なんと言ってもミュシャ様である。先日のミュシャ展にも足を運んだ。今っぽいというか、現代ソシャゲ・カードゲームのアートワークとしても通用しそうなくらいキャラ感のある作品が持ち味。肖像画だけでなくデザインにも類稀なるセンスを持っている、一押しの芸術家です。

 

第6章 20世紀の美術

 いよいよ現代に肉薄。ゲルニカをはじめに「美しさ」より「思考」が表現される作品が増えてくる。

 この章で紹介されるルソーという画家は、著者のお気に入り。ルソーとは言っても社会契約論のあの人ではない。彼の絵は有り体に言えばなんだか下手くそ。でも奇妙な目をした人物に何処か親近感を持ってしまう。著者が本書の表紙に据えたのも、わからなくはない。

おわりに

 見れば見るほど美術館に行きたくなるのがこの手の本である。でも、本だけでわかるほど芸術は甘くない。先日足を運んだ21世紀美術館では、常に?を頭に浮かべて作品を鑑賞するしかなかった。多少アートをわかっていても、想像を遥かに超えてくるのがアートのすごいところだ。時間があるうちに、いろいろな美術館に行っておきたい。