森の雑記

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金儲けのレシピ

金儲けのレシピ

 

はじめに

 力強すぎるタイトルに黒字に金文字の装丁の、実に怪しい本がある。しかも著者名が「事業家bot」。品もへったくれもあったもんじゃない。黒と金の組み合わせが許されるのはローランドだけだ。

 しかし内容が気になる。お金が嫌いな人はいないし、黒の表紙はミステリアスで蠱惑的だ。結局読むことにした。

 実業之日本社発行「金儲けのレシピ」について。

 

全体をみて

 売れている企業のノウハウを体系化、言語化する本だった。本書で書かれる「儲けレシピ」はいざ示されて見ると特異なものではなく、「その通りだな」と思うものが多い。隠し味や調理器具にスペシャルなものが使われたレシピでなく、作り方の工夫で勝負、と言ったところか。 

 おそらく本書を手にとる人の大半は経営者や企業家ではないと思うから、レシピを実践するのは難しいと思う。それでもこの本を読むのはためになる。本書の価値は成功しているビジネスをカテゴライズしてわかりやすくするところにあり、それを知っていることは「どのような構造が金を産むのか」という視点の形成に役立つからである。この視野は何も経営、企業にのみ役立つわけではなく、普段の仕事や、消費者としてサービスに「騙されない」ことにも寄与すると思われる。

 以下、面白かった記述について。

 

客に作業させる

 著者はIKEAのビジネスを「単なる板とネジと棒」を「棚」だと言い張る、と揶揄する。言われてみればその通りである。家具の販売は材料の調達コストより組み立てコストの方が高くなりがちであるが、IKEAはその作業をまるまる客に押し付けた格好だ。

 しかし我々はIKEAの家具を喜んで買う。安いしおしゃれ、なんなら組み立ても楽しい。なるほど素晴らしい発想。

 似た手口を使う商売に「焼肉屋」がある。こちらも「焼く」という調理工程を客に投げることで従業員の手間を減らしているのだ。

 このようにあるやり口を抽象化して言葉でくくり、あらゆるビジネス形態に当てはめて考えるのが本書のすごいところ。

 

マーケティングドリブン

 「売り上げ−売り上げ原価−販管費=利益」これを前提とする限り、原価が低いビジネスはその分販管(広告など)に金をかけられる。タピオカや鯛焼きサプリメント販売などの業態は原価が低いため、当然どの販売者も広告に金がかけられる。となると売れ行きは「いかに広告をうまくやるか」で差が出る。よって広告の打ち合い戦が起こる。

 顧客さえ獲得できれば儲かるビジネスは巧妙な「広告」を打ってくる。消費者たる僕らはこのことを頭に入れておこう。

 

形のないもの

 無形商材を売るのは難しい。金融商品コンサルティングサービスにはえてして懐疑的な目が向けられるものだ。これらを売るためには様々な方法がある。「有形商材っぽくする」「課題解決を謳う」など。

 本書には書いていないが紙メディアも似たような仕事だな、と。「情報」という無形物を売り、(ネットやスマホでも情報は手に入るのに)有形物らしきものも見せ(紙媒体)、将来に有効そうな言い回しで売る。

 だからこそそこにどれほどの価値、課題解決力を載せるかが勝負になってくるとも思う。

 

取引の一回性

 家や車の売買など取引が頻繁になされないビジネスでは、売る側が取引の瞬間に「なるべく多い額を絞り取ろう」とする。そりゃそうだ、一度打売ってしまえば今後の関係はないに等しい。

 逆に何度も取引をするビジネス、スーパーマーケットや備品補充などは継続的な「お付き合い」がなければ儲からない。したがって顧客をそれなりに大事にする。

 大きな買い物をする前に覚えておこう。

 

安いプレゼントを喜ぶやつはいない

 安い高いの判断は絶対的なものでなく相対的なものである。5000円という値段が提示された商品を考えてみよう。これが鉛筆だったら「高い」と感じる人がほとんどであろうが、パソコンだったら誰もが「安い」と思うはずだ。

 プレゼントに安いものをもらって嬉しい人はいない。値段の相対性を考えれば「いくらだしたか」ではなく「何に」「いくらだしたか」を考えることがプレゼント選びの肝である。もちろん人に渡す物として最低限の金額もあるので、その辺りを総合的に考慮しよう。あとは気持ち。

 

おわりに

 参考になるかどうかは捉え方次第だが、とても面白い本だった。1時間かからずに読めるので興味がある方はぜひ。