森の雑記

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マンガでわかる ブロックチェーンのトリセツ

マンガでわかる ブロックチェーン

のトリセツ

 

はじめに

 ビットコインバブルはとうの昔に終わったと思っていた。TVコマーシャルで芸能人がビットコインを宣伝する事もほとんど無くなったし、消費者庁が注意喚起を行った事もある。そんな逆風もあってビットコインは危険で怪しいモノになってしまった。

 それに伴い、何もわかっていないかつての自分は、「ブロックチェーン」(以下BC)も終わったのだと思った。当時はBCとビットコイン(両方略すとBCになってしまう)をほぼ同じモノだと捉えていたからだ。

 しかし、中田敦彦のユーチューブ大学や知人からの話を聞いて、どうやらそうでもないことに気づく。BCは「技術」であり、それを通貨に応用したのがビットコインであるようだ。

 したがって、ビットコインが「終わった」(あくまで投資の対象として、それも一部の怪しい売り方をしているモノに限って)ことは、BCのおわりとイコールではない。むしろこの技術はさらなる可能性を秘めている。

 そんなBCの可能性をわかりやすく教えてくれるのが、森一弥著佐倉イサミ画「マンガでわかるブロックチェーンのトリセツ」(小学館)である。

 

全体をみて

 BCを解説する本の中では最もわかりやすい部類に入るのではないだろうか。しかし「マンガでわかる」とあるものの、各章の導入にマンガが用いられているだけで、本書の70%くらいは授業ノートのような紙面で構成される。ストーリー→解説の流れになっているから抵抗なく読めるというだけで、解説ページは専門用語もきちんと出てくるから、普通に難しいところもある。「マンガ認知症」に近い構成と言えるか。

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 とはいえ、専門用語は使われる前にきちんと説明がなされるし、極力情報量を抑えたレイアウトも初心者には嬉しい。キャラクターが口語で説明してくれるから頭にも入りやすい。随所にわかりやすさへの工夫がなされた本だと言えるだろう。

 以下、面白かったところについて。

 

法改正

 日本では「資金決済法」が2020年5月に改正され、仮想通貨がいち早く法律に盛り込まれた。条文内では「暗号資産」と定義されているようだ。現時点で仮想通貨は投資対象としての側面が強く、決済手段としてはブラックな分野で用いられる事も多いが、制度上は幅広い取引に使えるようだ。

 

トーク

 BCにおいて理解が難しい概念のひとつが「トークン」。これは「価値を持った数字の情報」をさす。なんのこっちゃ。ものすごく平たくいうと、情報が金銭に限らない価値をもち、支払い等に使える時その情報単位を「トークン」と呼ぶ、的な感じか。

 本書で出てくる例のうちわかりやすいのは「大根を誰にいくつ発送したか記録すると、発送先の人にその分のトークンが渡される」という言い回し。

 トークンを使えば法定通貨や「金額」に縛られない取引ができることから、ものの価値を正当に表現できる強みもあるようだ。

 このあたりを読んでいて感じたのは、西野亮廣の「レターポット」に似ているな、ということ。あちらは文字をお金で買い、文字が通貨的に使われるサービスだが、お金以外の何かが取引に用いられるという面で類似しているかと。全然違うかもしれないけれど。

 

スマートコントラクト

 便利そうな技術。取引の契約内容をあらかじめBC上に書き込んでおくことで、条件が達成されると自動的に取引を実行してくれる契約管理方法。

 「魚を届けてくれた人に対価を払う」と書き込んでおけば、あとは自動で支払いがなされるというわけだ。便利過ぎないか。もちろん対価にはトークンが使われるし、BCのシステム上、ネットワーク内の全ての場所で取引の精査がなされるから、不正の心配も少ない。

 ちょっと脱線するけれど、BCの性質のうち「中央サーバーが不要」という面も大きく世界を変えそう。

 

量子コンピュータ

 BCの敵になりうる存在。処理速度が飛躍的に伸びたこのコンピューターの前には、さすがのBCも対応を迫られる。具体的には暗号が解読される危険性が上がる。一説によれば2027年にはBCの暗号技術は破られるんだとか。

 対応するための「量子耐性」を備えたBC運用も始まっているらしい。流行る前からすでに終わりが見えている技術ってなんだか悲しい。

 

ステーブルコイン

 なんらかの方法で価値を比較的安定させた仮想通貨のこと。多くは法定通過に「ペッグ」(レートを一定に)する。先日名称変更したFacebookの「ディエム」(元リブラ)なんかもここに分類されるらしい。

 

おわりに

 BCは技術というよりは「概念」だということはよく言われる話である。技術は応用して、あるものを改善する方向で用いられることが多いけれど、「概念」ともなると生活を根底からひっくり返せる可能性がある。量子コンピューターという「技術」にBCは勝てるか、はたまた共存し、己を改善するものとして取り込むのか。今後も目が離せない。