森の雑記

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国債がわかる本

国債がわかる本

 

はじめに

 「国債ってなに?」と聞かれると、ドキッとする。「国の借金」であること、日銀の「買い・売りオペ」の話、「マイナス金利」の意味、このような抽象的かつ断片的な知識は披露できるものの、それがどのような実態を持っていて、メリットデメリットはどんなところにあるかまでは答えられない。

 塾で政経や公民を教えている身としてこれはいただけない。先日「財務官僚の出世と人事」を読んで以来財政に興味が出てきたこともあり、

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 今回は山田博文著「国債がわかる本 政府保証の金融ビジネスと財務危機」(大月書店)を読んだ。

 

全体をみて

 ともすればとても複雑になりがちな「国債」の説明を可能な限り平易にしてくれる一冊。著者は多くの経済にまつわる本を出版している群馬大学教育学部の教授である。(2013年当時)

 さすがは教育学部の先生。本書では同じことを違う言葉で何度も繰り返してくれるので、読み進めるうちに国債への理解がどんどん深まる。また章をまたいだ時に、前の章で説明したことをざっくりともう一度買いてくれる部分も多く、随所に「わかりやすさ」への工夫がなされている。

 以下、各章面白かった箇所について。

 

第Ⅰ章 国債ビジネスと政府債務危機

 国債の発行が増大していくのには理由がある。それは「ビジネス化」である。

大手行などは①国債の利率収入②引き受け手数料(今は制度が変わって少し違う様相を呈している)③ディーリング益(国債を顧客に売買する手数料)、この3つの利益を「国債」から受けている。特に③に関しては銀行の営業利益の20%を占めることもあり、銀行は国債に大きく依存していると言える。

 この銀行の利益を守るために国債発行の圧力がかかり、歯止めが効かなくなっている面もある、と著者は指摘。しかし当然、このツケは国民に回ってくる。増税社会保障の削減で割を食うことになるからだ。

 

第Ⅱ章 現代資本主義と国債市場

 天文学的な数字から弾き出される売買差益を求め、グローバル化した国債マーケット。ここには多くの銀行、巨大投資家が参戦する。逆に言えば国債の価値や信用が下がれば、彼らの資産は大きく目減りする。いくら国債が安全な金融商品だからと言って、ギリシャデフォルトのようなことが起きないとも限らない。そこで大口の参戦者たちはなにを求めるか。増税である。

 増税によってある国の財政赤字が削減されると、当然その国の国債格付けが上がる。そうなれば彼らが保有する国債の価値も上がる。マネーゲームが継続できる。

 こうした状況は、常に大手行や投資家が消費増税に圧力をかけるインセンティブになりうる。

 

第Ⅲ章 動員される日銀信用と国民の貯蓄

 では国債発行額がこれほど増えているのに、日本の国際価格が値崩れしないのはなぜだろう。その理由の一つに「買いオペ」がある。国債を持っていれば、日銀が「買い取って」くれる。だから日本国債への需要は下がらない。よって価格も高止まる。

 国債の利上げによる悪循環も興味深い。国債価格が下がると、利率は固定されているので相対的な利回りが上がる。そうなると次に発行する国債はその「上がった」利回り以上の利率設定がなされなければ需要は喚起できない。金利を引き上げれば政府の負担は増える。資金調達のためさらに国債を発行する。信用が減り国債の価格は下がる。以下ループ。

 

 

第Ⅳ章 グローバル化する政府債務の危機

 こうした国債市場でマネーゲームが繰り返される様子を、著者は「カジノ型金融資本主義」と呼ぶ。各種規制緩和によりグローバルに一層活況を見せるマーケットだが、リーマンショックを誘発するなどの落とし穴も。

 金融恐慌や大企業倒産による雇用減に対応すべく、政府は公的資金を注入する。これは規制緩和=小さな政府を指向する動きと矛盾する。結果的に国に依存せざるをえない構造を産んでしまったのだ。この自家撞着を「誤りであったことが証明された」と著者は言い切る。

 

第Ⅴ章 一億総債務者と債務大国からの脱却

 現在の巨額債務は「もはや返済不可能」という著者。そこで「これ以上財政赤字を増やさないが、すぐには財政赤字を返さ」ずに、期間を定めず長期的に返済を行う「債務管理型国家」を提案。

 加えて公共事業より、経済効果・雇用創出力の高い社会保障に力を入れることも大事だと。

 

おわりに

 何気なく見る予算のニュースや金融危機トピックの解像度が上がった気がする。読んで良かった。