森の雑記

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発想の整理学

発想の整理学

AIに負けない思考法

 

はじめに

 故外山滋比古先生が書いた「思考の整理学」のパクリと見紛うようなタイトル、さらに「AIに負けない」といかにも最近ありがちなサブタイトルを備えたこの本を見て、少し嫌な気持ちがしたのは事実である。でもまあ外山先生自身も何冊か「整理学」の名を持つ本を送り出しているし、何より本書の出版社は「思考の整理学」と同じ筑摩書房である。だったらこれはパクリではなく、愛とリスペクトの元にオマージュがなされた本だと見るのが適当だろう。僕もAIには負けたくないステレオタイプ人間なので、まずは読んでみようと思い、山浦晴男著の「発想の整理学」を開いた。

 

全体をみて

 本書は「発想」を助ける様々なワークを教授してくれる。けれどその作業説明が非常に分かりにくい。適宜図やイラストを挿んでくれるものの、文章だけで説明するのはやっぱり難しいのか、それとも文章が下手なのか。何回も読み返さないと「今何を説明しているのか」が分かりにくい。数十ページも前に出た固有名詞を繰り返しの説明なく使ったり、独自の使い方をする言葉を唐突に出したり、記号が馬鹿たくさん出てきたりと、とにかく頭に具体的イメージが浮かばないような書きぶりである。まあストレートに滞りなく読めないのは僕の頭が足らないせいも大いにあるのだろうけれど。

 ただ、よく読んで理解すると、この本に書いてあることには非常に納得できる。確かに人の思考って山浦さんが言うように展開するし、本書に書いてある発想方法はそれを大いに手助けしてくれそうだ。考え詰めて、と言うよりは直感的に起こる「発想」をスムーズにしてくれるような。

 以下、各章について。

 

第一章 AIに負けない仕事とは何か

 まずは現代の分析。AIは事務作業や数量的アプローチを得意とするので、人は価値判断やコミュニケーションなどの分野で活躍しよう、そんなよくある言説。作者もいくつかの本を読んだ上でこの結論にたどり着いたようだ。

 この章で面白かったのは「問題解決」における西洋と東洋のアプローチ差の話。西洋的な

アプローチは問題に対し「原因を究明して、それを除去する」。東洋は「構造を理解し、要所に治療をして徐々に全体が治癒することを目指す」。今は西洋的アプローチが主流というか普通にされているけれど、東洋的アプローチも見直されてきていると思う。特にサッカーの分野では東洋的アプローチって悪くないんじゃないかな、と。調子の悪い選手を「交代して」なんとかするよりも、その選手の配置や役割を変えて全体を調整することで、試合状況を改善すれば交代枠を使わずに問題が解決できるし。

 

第二章 実態を捉える

 カードを用いたKJ法の説明。ここから実践的なワークの紹介が始まる。詳しくは本書に

譲る。考案者の言語化でさえここまで不明瞭になるのだから、自分が書いたら余計訳わからなくなりそうだから書きたくない。

 このKJ法で作る「見取り図」は問題や現状の構造を把握するのに非常に役立ちそう。

 

第三章 深く考える

 この章はすごい。革命的と言ってもいいかもしれない。著者が「思考の三角形」と名付ける発想の分類方法に感動。

 著者曰く、発想には4つのタイプがある。それをフローチャート的に示してみる。

① まず、問題・課題・疑問・悩みがある。

②a ①に対し「しかし」「だが」「そうは言っても」と逆説的な情報を出す。

②b ①に対し「そういえば」「さらに」「もっといえば」と補足や連想の情報を出す。

③a ②から「ならこうしよう」と解決のアイディアを導く。

③b ②から「とすると」と問題をより掘り下げる。

 発想は必ず①②③のルートを辿る、と言うのが著者の弁で、abそれぞれを使うことで全4タイプの発想があると言う訳だ。

 これは確かにその通りかもしれない。だから、思考に困ったときは上に挙げたような「しかし」「なら」など接続詞を自分に補ってあげれば、思考をこのルートに載せることができる。他者との会話でも使えそう。

 

第四章 企画を立てる

 この章は自らの内なる声を聞く「コスモス法」の説明。こう書くととてもスピリチュアルな感じがしますね。冒頭の説明からこんな感じのちょっと精神的すぎる感じもするのだが、内容は悪くない。意識化ではなく無意識の領域で「自らが何を思考しているか」を知る方法は必見。

 

第五章 実際にやってみる

 著者の提唱する「発想法」を様々な場面で応用する。エクセルを使ってみたり、メールを使ってみたり、やり方は様々。

 この章にあった「日本人にディベートは合わない」という話が面白かった。

 

おわりに

 だいぶ読みにくい本で端折った部分があるので、完全に理解しきったわけではないが、特に3章などは素晴らしい内容だったと思う。パクリなどと思って申し訳ありませんでした。