森の雑記

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The Third Door 精神的資産のふやし方

TheThirdDoor

精神的資産のふやし方

 

はじめに

 ここ数日移動が多かったので、道中自己啓発本でも読もうかと思って、アレックス・バナヤン著、太田黒奉之訳「サードドア」を取り寄せた。届いたそれを手に取ると、思ったより分厚く、ずっしりという形容がよく似合う本だった。内容や著者については全く知らず、完全にタイトル借りをした代物だっただけに、唐突な重みには少々面食らった。

 

全体をみて

 自己啓発本というよりは、アレックス・バナヤンの自伝といった雰囲気だった。彼の数奇で行動力のありすぎる半生を通して「サードドア」をくぐることの重要性が語られる。一人称で書かれているため、文体はカジュアルだから400p超の頁数ほどには読むのにストレスはない。

 以下、好きな部分について。

 

サードドア

 冒頭、アレックスは「成功には3つの入り口がある」という。ファーストドア、正面入口は99%の人が列をなし、少しずつ、届くかもわからぬ成功に向かっている。セカンドドア、これはVIP専用。セレブや名家が使う裏口。そしてサードドア。どこにだってあるけれど誰もありかを教えてくれない。裏道を進み、たくさんのドアをノックし、ようやくたどり着いたキッチンのその先にあるドアだ。

 彼は「偉大な成功者はみんなサードドアをくぐった」という結論を得た上で、本書を著す。

 

スピルバーグ・ゲーム

 ユニバーサルスタジオのツアーバスをこっそり降りたスピルバーグが、内部に潜入し、ついにチャンスを得た、というのは有名な話。アレックスはこの時スピルバーグがした行動を「スピルバーグ・ゲーム」として定式化する。内容はこうだ。①ツアーバスを降りる(正規ルートを離れる)②インサイドマンを見つける(内部関係者とコネクションを作る)③その人に中に入れてもらう。

 自分に自身があり、行きたい場所があるのにそのチャンスがないと嘆くのであれば、「スピルバーグ・ゲーム」に挑むべきだと思う。就活だって転職だって、結局スピルバーグ・ゲームができさえすればうまくいく。なのになぜみんなやらないか。それはツアーバスを飛び降りるのがあまりに怖いからだろう。けれど、一度降りればその時の快感はきっと忘れられない。学校を初めてサボったあの日のことって、いつまでも光っているじゃないですか。

 

5つのルール

 アレックスがエリオットに言われた5つのるルールが最高にクール。①ミーティング中は携帯を見るな。デジタル化が進んだ今、アナログにメモを取る方が相手の印象に残る。②メンバーとして振舞え。相手を上に見すぎず、一員として振舞えば仲間になれる。③神秘が歴史を作る。あれこれSNSに自己開示をするのは魅力的じゃない。④俺の約束を破るな。信頼を築くのには長い時間がかかるが、崩れるのは一瞬。⑤冒険好きなものにだけチャンスは訪れる。

 どれも含蓄があるけれど、②は目新しくて好き。

 

異なるアドバイス

 これは名言とかではなく、作中のエピソードから。アレックスが選択を迷っている時、信用する2人から異なるアドバイスをうけるシーンがある。ここでは誰しもが一度は経験する、神経をすり減らす場面「目上の2人からそれぞれ違う指示を受ける」について、アレックスは一つの答えを出してくれたように思う。

 「いつも親身になってくれる方が正しいとは限らない」そういってアレックスは片方のアドバイスに従うのだけれど、これは結果として裏目に出る。それどころかアレックスが受け入れたアドバイスの主は大嘘つきだった。

 ここで学べるのは、「相手の言い分がいかに正しいか」より、「そのアドバイスは誰のためになされたか」を見る方が大切だということだ。いかにいいアドバイスであろうとも、成功したときに利を得るのが誰かを考えれば、自ずと選択は決まる。

 

同じ教訓に何度も頭を叩かれて

 アレックスが同じような失敗を何度も繰り返したときに出てくるのが「人生とは、同じ教訓に何度も頭を叩かれて、やっとそれに耳を傾けるものなのだ」という言葉。

 「1度痛い目を見ないとわからない」とはよくいうけれど、喉元過ぎれば熱さを忘れる僕らには、一度の失敗じゃ足りない。教訓は何度も失敗してようやく学ぶものなのだ。

 

レディ・ガガアンディ・ウォーホル

 スープ缶で有名なアンディ・ウォーホルレディ・ガガのヒーローらしい。確かに「既存の価値観への挑戦」という共通項で2人を括ることができる。

 YouTube大学でアートの授業を見ていなかったらここに納得できなかったので、中田敦彦さまさまである。

 

おわりに

 「世界中の著名人にインタビューをして1冊の本にする」優秀ではあるがどこにでもいる大学生の馬鹿げた挑戦が身を結んだ本書。彼もまた「サードドア」をくぐったのだろう、と安い締め方をするのもいいけれど、ここではやめておく。

 アレックスがこの企画を成功させたのは、滑り出しのクイズショーで運が良かったからだとも思うし、そもそも英語圏にいるから「多くの人にインタビューする」計画が自然に完遂できた部分もあるだろう。つまり彼の成功は偶然や環境によっている部分はけっこう大きいのではないか、と僕は思うのだ。そんな彼にとっての「サードドア」は僕らより身直にあったはずだ。

 環境に恵まれない僕らが「サードドア」をくぐるにはどうすれば良いか。それはスピルバーグ・ゲームの①を、まずはやってみるしかないんじゃないかな、と。