森の雑記

本・映画・音楽の感想

装丁物語

装丁物語

 

はじめに

 本は美しいものであって欲しい。初めて星新一ショートショートを手に取った時の感動は今も忘れられないし、森見登美彦の「夜は短し歩けよ乙女」を目にした時のワクワクはまるで昨日のことのように感じられる。前者は真っ白な表紙に描かれたロボット、後者は真っ赤な地に描かれたキャッチーなキャラ達。もちろん本の主役は内容だけれど、その内容に辿り着けたのは、美しい表紙があったからこそだ。だからやっぱり、本は美しくあるべきだと思う。

 そんな本の装丁に腐心する和田誠さんの「装丁物語」白水社発行 について。

 

全体をみて

 日本に和田誠を知らない人はいない。名前は知らなくとも一度は彼の装丁をみたことがあるはずだ。本書はそんな彼が「装丁家」として携わってきた本を振り返る。当然、数々の魅力的な本が出てくるので、いちいち読みたくなってしまう。

 また口語的な文章で書かれているので、すごく読みやすい。彼の人柄がよくわかる。単なるイラストレーターではない、本の外面を総合的にプロデュースする「装丁家」として、彼がどんな信念、意図を持って活動してきたかがわかる一冊だ。

 以下、和田さんが手掛けた本の中で気になったものについて。

 

ぐうたら人間学 遠藤周作

 講談社から発行されたエッセイ集。遠藤先生は本来純文学作家であるが、その人が書いた気軽なエッセイ集が鬱屈とした時代に受けた。

 穴に籠もって冬眠する動物たちと老人が呑気な雰囲気を出している。カバー裏には蛇がいる。

 

きまぐれ星のメモ 星新一

 読売新聞社から出た星先生のエッセイ集。星が可愛い。すぐに図書館から取り寄せました。

 

谷川俊太郎の33の質問

 出帆新社から出た本。詩人谷川俊太郎が様々なジャンルの人に素朴な質問をぶつける。「優しさを定義してください」「金銀銅どれが好きですか」など、詩人らしい質問に各界の人が悪戦苦闘するのが面白い。カヴァーには無機質な立体がたくさん描かれているのだが、全ての面を合計すると33面になっているそう。こだわり。

 

ニューヨーカー物語

 新潮社から出た、雑誌「ニューヨーカー」に携わる人々の本。元々「ニューヨーカー」はアルファベット綴りであるところ、カタカナをアルファベット風の書体にしたタイトル表記がおしゃれ。

 

挨拶はむづかしい

 朝日新聞社から出た丸谷才一先生のスピーチをまとめた本。丸谷先生はパーティなどでするスピーチのうまさに定評があるそうで、それらが書籍化された。原稿片手にマイクの前に立つ丸谷先生の絵がなんともチャーミング。

 

その人をその人として

 日本基督教団出版発行、徳永五郎さんが書いたヒューマニズム的な本。小さい花、大きい花、萎れた花の上に虹がかかったイラストを表紙にしている。「いろいろな人がいるけれど、誰の上にも平等に虹がかかる」ことを表している。

 いいものにはきちんと意図がある。

 

バーコードについて

 これは本のタイトルではなく、書籍に印刷される識別バーコードについての話。和田さんは本にバーコードが刻印されるのに反対だそうで、多くの反論を投げかけている。表裏、時にはカヴァーの下まで全てを手掛けるのが装丁の仕事だが、その一部に「バーコード」という異分子が入り込むことによる違和感は、やっぱりぬぐいきれないようだ。これまでバーコードを殊に意識したことはなかったけれど、言われてみるとない方がいい。あるのが当たり前の時代しか生きていなかったから、眼から鱗の意見だった。今は透明なバーコードを印刷する研究がなされているそうで、早期に実現して欲しい。

 

おわりに

 和田誠が「装丁」の仕事へいかなる信念を持っているかを見せつけられる一冊だった。本の手触りとか、質感とか、そういう部分を味わうのが好きな僕は、やっぱり隅々まで考え抜かれた一冊を手にしたい。和田誠の本ならば間違いなくそれが実現されている。電子書籍に乗り換える時期はまだまだ遠そうだ。