森の雑記

本・映画・音楽の感想

PEOPLE1 「常夜燈」

PEOPLE1「常夜燈」

 

はじめに

 先日の夜はなかなか寝付けなかった。そんな時は漫画を読むに限る。そういうわけでもう何度目か忘れたが、「チェンソーマン」を一気読みした。最新話の鬱展開もさることながら、やはりこの作品は恐ろしい。

 読み終わり、まあ音楽でも流すかと思い立ち、適当にiPhoneのシャッフル機能を働かせていた。すると何曲目かにPEOPLE1の「常夜燈」が流れる。歌詞を聞くと、不思議なくらいチェンソーマンにぴったりな曲だった。なんだか運命的な出会いもあるものだ、そう思いつつ小規模な奇跡を楽しんだ。胸の常夜燈とか映画とか、やっぱりチェンソーマンっぽい。

 SNS広告を通して知る人も多いだろうPEOPLE1は、そのマーケティング的戦略もさることながら、やっぱり音楽がいい。「東京」「フロップニク」など粒が揃っている。特に「東京」。京王線と中央線、学生と社会人を対比する歌詞が非常にエモーショナルだ。曲名「東京」にハズレはないですよね。きのこ帝国しかりBaseBallBearしかり。

 脱線はさておき、以下歌詞を挙げながら「常夜燈」について。

 

「常夜燈」

 

youtu.be

 「天国に学校はあるかしら

 考えたこともない問いかけから始まる楽曲。メロディーをリズミカルに支えるピアノ伴奏が心地よい。帽子を被った少女がてこてこ踊っているMVもいい。

 

 続けてドラムが参戦してから、宗教チックな歌詞が本格化する。

皆は君の 君は神様のせいにする

 ミスを起こした時、もちろん周囲は当人を責める。もちろん自分が悪いことは百も承知、けれどどこかで、僕たちは「神様」のせいにしてはいないだろうか。環境のせいとか、運が悪かったとか、自分の手が届かない神のような存在にすがることは誰にでも起こりうるよね。わかるわかる。と思っていると一転、

その神様の歌声は 今じゃよくあるコンビニの放送

 ぼんやりしていたら急に肩を叩かれたような感覚。スピリチュアルな歌詞が突如接近してくる。注意して聞くことはないが、なんとなく耳に残るアレ。現代の神様はかなり俗っぽいらしい。

 

 のびやかなボーカルに便乗して曲を進もう。すると割れかかった別の声が登場する。

みんな優しさを受容して」「期待外れの夜

 皮肉めいた言い回しはメインボーカルの爽やかな声より、太めのこっちが合う。曲はサビへ。

 

この世界には未来がキラキラとみえる人もいるというの

 神様に責任を押し付けるような人間に、未来が輝いて見えるはずもなく。ほの暗い世界を生きる人には周りが多少見える程度、常夜燈ほどの灯りで十分だ。いきなり輝く未来なんて見たら目が眩む。けれど、明るい未来を夢見るのなら、いつかそこを目指すのなら、いつか常夜燈を手放す時が来る。曲は2つ目のパートに。

 

才能って一体何だろうね

 カジュアルな歌声でこういうことを聞かれると、「なんだろうね〜」と流してしまいそうだ。ブランコに乗った時、隣の人の声はよく聞こえない。意味がありげな発言だって聞き流してしまう。

 

いつか大人になるならば」「そんな努力もしてみよう

 相変わらずリズミカルなピアノを背景に、高らかな裏声が炸裂。ふざけて歌っているような、本気で努力をする気がないような、軽口。努力して失敗したら自分のせいになってしまうから。それでも「いつか努力しよう」と思うだけで胸のつっかえが取れることがある。先延ばしだと言いたければどうぞ、と言わんばかり。冷ややかな視線を物ともせず、のびのびと歌う声が眩しい。

 

この世界では人をだましたり モノを盗んではいけないというの

 「だましたり」「盗んでは」のテンポの良さが癖になって何回も聞いてしまう。他者への悪影響を徹底的に排除する世界なら、周りの人なんて見えなくていいじゃないか。他者が見えてしまうから、他者への悪意が生まれる。であれば、常夜燈ほどの灯りすらいらない。真っ暗なら何も見えないから。

 

 一通り言いたいことを言ったのだろうか。声はしばし休憩に入る。管楽器のような音が気持ちよく響いて、次第にトーンダウン。ややあって、1つ目のパート「この世界には」の歌詞が繰り返される。名曲には欠かせない「ラスサビ前のトーンダウンしたリフレイン」である。

 「食えぬものなど置いていかなくちゃ

 やっぱり歌い足りなかったのだろうか。帰ってきた声は1回目と少しちがった調子でラスサビへ向かう。

 

臆病な自尊心に匿われて

 ここまでの積み上げをまるで意に介さず、全く新しい歌詞、新しいメロディーが現れる。裏声ハモリなんでもありだ。賑やかさに面食らいながら、なんだか楽しくなってくる。なんだか天国にいるような気分になる。でも、楽しそうな天国には死ななきゃ行けない。そういう意味で天国は、暗闇の中に見出されるたった1つの灯りだ。この明るさ、何かに似ている。

例えばこんな胸の常夜燈

 

 天国に学校はないといい。

 

おわりに

 毎度音楽のことを書くと、妄想全開系電波文章になるので少し自重する必要があるか。趣味の場だからそれでも別にいいか。

 抽象的で考える余地がたくさんある歌詞、シンプルな音、少女が踊るだけのMV、余計な情報が削ぎ落とされたこの曲に、僕らは様々な思いを投影できる。だから、心が暗くなった時、周りが見えなくなった時に、この曲に自分を重ねれば気持ちはほんの少し明るくなるかもしれない。まるで常夜燈みたいに。