森の雑記

本・映画・音楽の感想

四畳半タイムマシンブルース

四畳半タイムマシンブルース

 

はじめに

 「タイムマシン」それは洋の東西を問わずそこかしこに出てくる、時空を移動するためのツールだ。誰だって戻りたい過去があるし、覗いてみたい未来がある。人類共通の願いを叶えるこの機械は、多くの物語で主要なモチーフになってきた。

 タイムマシンを扱った物語に、「サマータイムマシンブルース」という作品がある。感傷を呼び起こす単語が三つ並んだ素晴らしいタイトルは、上田誠によって舞台として作られた。後に瑛太らで映画化する本作を僕はまだ見たことがない。ではなぜ知っているかといえば、敬愛する森見登美彦先生がこの作品を原案とした小説を書き上げたためである。多くの森見アニメで脚本を手掛けた上田誠の舞台を、森見先生が小説化する、これほど心おどることは無い。

 この小説は、「森見登美彦がタイムマシンを物語にするとどうなるか」という質問への答えである。

 

全体をみて

 久々の完全新作のすっかり購入を忘れていたところ、バイト先の友人が快く貸してくれた。感謝である。

 そもそも森見先生の本を読むのがひと月ぶりなのもあり、読む前から少し緊張した。頁をめくるとすぐに明石さんや小津、樋口師匠など、おなじみのメンバーが息づいている。この時点でいったん本を閉じてしまう。ああ、読み終わるのが惜しい!まだ数頁しか読んでいないのに、すでに読了がもったいなく感じる。本当に久々に彼らが動くところを見られたのに、200p程読めばもうおしまいだ。読みたいのに読みたくない。

 結局ものの2時間で読み終えたわけだが、切ない気持ちでいっぱいである。変わらず美しい中村さんのイラストもセンチメンタルに拍車をかける。

 以下、好きな場面。

 

残りの2人は妖怪である

 小津を妖怪のようだと形容した「10人中8人が妖怪と間違う」に続くセリフ。久々に主人公の口からこれが聴けた時の感動と言ったら。

 この本自体が、かつて彼らと出会った時に戻るタイムマシンのようなものである。

 

ラムネをグイと飲んだのである

 お待ちかね、明石さん登場シーン。恐ろしく凛としていてすこぶるキュートな彼女に射抜かれた男子諸君はさぞ多かろう。僕だってその1人だ。明石さんはいったい主人公のどこがいいのだろうと当時は不思議だったけれど今ならわかる気がする。

 

このうえなくやはらかいあんころもち

 こんなに柔らかな言葉がこの世にあっただろうか。

 

樋口氏は「ニッポンの夜明けぜよ!」以外の台詞を断固として言わない。

 明石さんが作るポンコツ映画に出演する樋口氏の様子。

 ここまでの場面でまだ30p程だから驚き。序盤飛ばし過ぎじゃない?

 

大喧嘩

 小津と主人公が大喧嘩するシーン。「今日のあなたが諦めるというんだから、昨日のあなたを説得します」小津のセリフにはなぜか目頭が熱くなる。動機は最低だけれど。「明日があるさ」というセリフは至極当然のようでいて、実は当たり前でないことを身に染みて感じた場面。

 

いわゆるデジャヴというやつだろう

 タイムマシンによってデジャヴのようだがまごうことなき「過去」に旅してきた主人公。一転、ラストシーンでは「本物の」既視感を味わう。これは前作「四畳半神話体系」とのリンクであろう。

 

おわりに

 興奮冷めやらぬまま書いたのでひどく稚拙な感想になってしまったが、ご容赦願いたい。久々に出会った彼らとの物語が終わってしまったのは非常に残念である。叶うものなら読前にタムスリップしたい。