森の雑記

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神聖かまってちゃん 「22才の夏休み」

神聖かまってちゃん

「22才の夏休み」

 

はじめに

 「夏が近づいてきた」というよりも「もう夏だね」という方が正しい気がするこの頃。それでも、6月が薄れる存在感をアピールするように、少し遅れて梅雨が来る。きっと誰しもが「夏」を意識すると聴きたくなる曲があると思う。それは椎名林檎「長く短い祭り」だったり、サイサイ「8月の夜」だったり、人それぞれである。そして、これを書いている僕が毎年聞いてしまうのが、神聖かまってちゃん「22才の夏休み」。

 この曲を初めて聞いたのは、中学3年生の夏。好きだったアニメの主題歌を作ったバンドのアルバムを買い、収録曲の中に見つけた。アルバムのタイトルは「8月32日へ」あまりに素敵だ。当時15才、22才なんてあまりに先のことだと思っていたのに、気づけばもうすぐ22才になろうとしている。同じ曲でも、聞くタイミングによって感じ方が違うのは、多くの人が知るところであろう。今回は改めて、この曲について書こうと思う。

 

「22才の夏休み」

youtu.be

 走る青いパーカーの少年。空の色に子供の頃を思い出す。再生時間は4分57秒。

「この永遠に続くかのような夏の中で、僕はとりあえず、踊った」

ボーカル、の子(大島亮介)の独白で楽曲が始まる。「どうしてこうなった」の言葉に思い当たる節があれば、この曲はきっとあなたに響く。

 ノスタルジックで爽やかなピアノの音を伴って、彼が歌い始める。手作り感満載なMVがやけに懐かしく見える。

「声がする 八月の 君とゆく 夏休み 10年前、もうチョイ前 あだ名があった頃」

たどたどしく、思い出を呼び起こす歌詞。10年前のあだ名は今でも思い出せる。その時に仲が良かった友達とは、今は疎遠になってしまった。

「夏がまた来たので ふと後ろを見たよ」

これまでの夏を振り返りながら、サビへ。

「22才の僕は 22才の君より 22才してない 夏をゆく」 

天才的である。振り返った過去、あの頃はみんなが宿題に追われて、公園で遊んで、そんな夏を過ごしていたのに、22才になった自分はもう「君」とは違う。美味しそうにうどんを食べるの子がチャーミング。

「君が僕にくれた あのキラカード その背中に 貼り付けてやるよ」

気づけば、キラキラと輝くカードは無機質なクレジットカードになっている。

 曲は2番へ。間奏中ショッキングな映像が流れる。初めて見た時、こんなの流していいのか、と驚いたのを思い出す。

 

 走るの子を車で追いながら、2つめのパートが始まる。時々振り返る彼を引いてしまうんじゃないかとヒヤヒヤする。

「そんでやってきた バス停前 半袖で君と待ち合わせ

帰りてーが 本音です 断れよ、腰ぬけ」

あそびの誘い全部が魅力的だったあの頃と違って、色々なお誘いをいただくようになった時、断りきれないのは自分が腰抜けだからか、それとも大人になったからか。だとすれば、自転車に乗って汗だくで学校に通った日はもう帰ってこない。所々で聞こえるノイズのような何かが軋むような音は、きっとセミの鳴き声だ。なつかしい鳴き声で過去に戻り、歌詞に今を感じる。過去と今を行き来しながら、走り続けるの子を追って曲はラストへ。

 

 変わり続け、大人になっていく「君」といまだ変われない「僕」。追いかけても追いかけても距離は詰まらない。成長できない自分への苛立ちが言葉になる。

「君なんて大嫌いだっつの」

本当は自分に向けるはずの言葉を「君」に投げつける。そして曲はラストサビに向けてギアをもう一つ上げる。

他人との違いに絶望していても、成長できない自分に失望しても、夏はまた来る。であれば、少しでも前に進むべきだと、「出かけてみる」べきだと、優しくの子が語りかけてくれる。天才的なフレーズをもう一度繰り返し、曲は終わる。

「22才の僕は 22才の君より 22才してない 夏をゆく 君が僕にくれた あのキラカード その背中に貼り付けてやるよ 今すぐに」

慈悲でもらったキラカードなんてもう必要ない。オンマイウェイというやつである。

そして、終わったかに思えた曲の最後に一言。

甲子園に出たかった

うそつけ。

 

全体をみて

 端的なフレーズを繰り返しながら、「あの頃」の夏と「今」の夏をリンクさせていくこの曲は、ある人が聴けば昔を思い出すし、またある人は未来に想いをはせることもできる。類を見ないほど素晴らしい曲である。

 また、の子の叫ぶような歌い方にすごく癖があるので、きっと声だけで聴いたら聞くに耐えないであろうこの曲だが、軽やかなピアノや疾走感のあるMVによって全体的に爽やかに感じられる。歌詞はすごく後ろ向きだけれど、最後にほんの少し前を向くところも素敵だ。

 

おわりに

 神聖かまってちゃんはこのほかにも「23才の夏休み」「33才の夏休み」という楽曲をリリースしていて、こっちはこっちで味わい深い。多くの人が大学を卒業する22才と、社会人1年目になる23才には大きな隔たりがあるだろう。23才と33才は言うまでもない。今の自分が10年前を懐かしむように、33才の自分もきっと22才を懐かしむ。その時に聴くのは「22才」「33才」どっちの「夏休み」だろう。今から楽しみでならない。