受験脳の作り方
受験脳の作り方
はじめに
今年の大学受験生はさぞかし悩んでいることだろう。民間試験導入中止、センター試験の存続、新型コロナウイルス、多くのトラブルにより先が見通せない。自分は塾講師のアルバイトをしているゆえに、生徒達にどんなアドバイスをすべきか、非常に慎重になる必要がある。
またそもそも現在の受験制度については、批判的な意見も多い。暗記偏重、一発勝負など、本当にこのままでいいのか、そんな議論も活発にされる。
おそらく、こうした環境下で「受験」のあり方は変容していくのだろう。一般やAO、推薦など、僕たちが経験した受験が過去の遺物になる日はそう遠くないのかもしれない。
それでも自分が経験した受験を、記憶に残しておくのは必要なはずである。未来の予測には過去の分析が必要不可欠だからだ。今回はこんな動機のもと、高校時代、僕の勉強バイブルだったこの本を使い、受験を振り返ってみようと思う。
全体をみて
本書は脳科学の知見から、「受験」を戦うのに効率的な勉強法や考え方を紹介するものだ。筆者が言う通り、科学とは日々更新されるものだから、もう10年近く前になるこの理論や僕の受験は、今の考え方と比べて適切ではないかもしれないけれど、ご容赦願いたい。
勉強法① スケジューリング 1年生
僕の受験勉強のスタート地点は、高校1年生夏休みだった。やや進学校よりだった中高一貫の母校においては、このくらいの時期から教師陣が生徒を急かし始める。人生をかけた受験、いかにアッパー層になるか、偏差値と将来、様々な言葉で危機感を煽る。今思えば、そんなに緊張しなくても、と思ったこともあるけれど、結果としては急かしてくれてよかった。
さて、私立の中高一貫に通いながら、それほど裕福な家庭に育たなかった僕には、最初から私立の大学へ行く選択肢はなかった。中高私学に払うお金と、大学で私立に払うお金を両親が比較した結果、天秤は前者に傾いたらしい。なかなか考えたものだ。そのため、こと「受験」において、国公立受験のため、僕はいわゆる「5教科7科目」をクリアする必要があった。一般的な認識は別にして、当時の僕にはあまりに多いと思われた。だが同時に今から計画的に始めれば、それほど切羽詰まることもないかな、とも感じた。自分の性格として、今できることを後回しにするのは気分が悪くなるし、受験勉強」を高校1年の時点で始めることにした。
ではそのスケジューリングだが、僕はこれに丸々ひと月を費やした。夏休み全てである。したがって、勉強を始めたとは言っても夏はほとんど参考書を開くことはなかった。
まず志望校。そこそこ勉強が得意で、偏差値で言うと50後半くらいの数値だった僕は、受験業界でいうところの「ブロック大」に照準を合わせることに決定した。これが8月の頭。受験形式は一応文系を選ぶ。が、個人的には理系にも興味があったので、その選択は潰さないようにする(後述)。
その後、科目を選ぶ。国語は現文、古典、漢文を全てやる。社会は世界史の先生が大好きだったので世界史に決定。公民は国公立上位の必須条件である倫理政経全てをやる。数学は当然1Aも2Bもやる。理科は物理が大苦手だったことと、学校として地学が優遇されていなかったことを踏まえて生物と化学を選んだ。
つづいて、それぞれの科目の履修年次を調べる。
・現代文 1年〜3年 ・古典 1年〜3年 ・漢文 1年〜3年
・数1A 1年 ・数2B 2年 ・数3 3年
・英語 1年〜3年
・化学基礎 1年 ・生物基礎 1年 ・化学1年〜2年 ・生物 2年
・世界史 1年と3年 ・倫理政治経済 3年
こんな感じだった。中高一貫で文系特進クラスに進んだ場合、基本的に文系にせよ理系にせよ、どちらの受験方法にも対応できるカリキュラムになることがわかった。それに伴い、文理選択は3年生の自分に委ねた。ついで、これをみた瞬間に、化学基礎、生物基礎、世界史の前半、数1Aは2年から入試の勉強に入れることが判明。これらを踏まえ、経済的な事情もあったのと、そもそも勉強を人に管理されるのが苦手で塾には行かなかったので、自らセンター試験までのロードマップを作成した。
①一年生期間はとりあえず目の前の定期テストや授業を頑張る。
②二年生になったら、数1A、理科の基礎科目、世界史の前半を入試で戦えるレベルにする。並行して、英語、国語は入試問題に挑む基礎を固める。
③三年生は二年で完成しなかった科目をやる。
ざっくりいうとこんな感じになった。
こうして、1年生のうちは毎日1、2時間くらいの勉強をしていた。
勉強法② 必要得点の計算と参考書選び 2年生
スケジューリングが決まったら、次は目標を決める。国公立受験を目指す僕は、ひとまずセンターに向けた勉強を開始する。国公立の2次試験対策はセンター後のひと月で仕上げる。後回しである。目標は以下の通り。
・CT試験 トータル720点/900点満点中
得点率80%
・国語 170点/200点 ・英語 170点/200点(リスニング含め)
・数学1A 80点/100点 ・数学2B 50点/100点
・世界史 85点/100点 ・倫政80点/100点
・理科 生物基礎 45点/50点 化学基礎 40点/50点
全体として数2Bの失点をいかに補填するかを考えた目標である。何を隠そう、2年生夏頃の模試で「あ、これは数2Bだめだ」と気づくくらい酷い成績を叩き出した。それに合わせて理系受験もやめた。逆に、国語と理科はものすごく得意だったので85%いけるぞ、と強気に設定した。
また、この夏休みでセンター試験まで心中する参考書を選ぶ。塾に通えない僕にとって、参考書選びこそが受験戦争の肝になる。「受験脳の作り方」の本を2年生の6月ぐらいに買い、勉強法、参考書等を具体的に決める。1冊の参考書を極めることの重要さを本書では説いていたが、もう少し時間に余裕があったので各科目2冊を極めることにした。目標の点数に合わせて参考書のレベルを分け、数学は本当に苦手だったので解説が全体の70%くらいある入門書を1冊買った。
2年生期間は理科基礎と数1Aの勉強を毎日せこせことやりつつ、授業の復習を参考書を用いてやった。加えて、膨大な暗記が必要なこと(英単語、熟語、古典単語)は毎日やった。これも本の教えに従い、忘却曲線を踏まえた上で繰り返した。勉強時間は1日3〜4時間。
勉強法③ 演習 3年生
3年生になると、公民と世界史の後半を残す社会以外の科目は基本的に演習に入る。学校の授業も半分問題を解く時間、もう半分で解説という形になる。ここからはいよいよ本番。2年生の頃に厳選した参考書をとにかく完璧にできるまで繰り返し、空いた時間でセンターの過去問や模擬問題を解いていく。
ここで大事なことは計画的にやることだ。闇雲にやってはいけない。僕の場合は、12月末までに終えるべきことを科目ごとに列挙し、それを週単位で分解、曜日ごとに科目を振り分けて勉強した。
例えば生物基礎は
●12月末までに ・CT20回分 ・セミナー2週 ・リードα1週
●週単位で ・CT2回 ・セミナー6ページ ・リードα3ページ
●曜日ごと ・火曜 CTとセミナー ・木曜 CTとリードα
こんな感じでテキストを割り振って、大体1日に2、3科目をやった。同科目の異なるテキストを学習する際には、片方を先週の復習用にする。1日の勉強時間は6〜7時間。
道中の出来事
こんな学習を続けていたところ、2年生の後半で偏差値は60後半まで上がり、校内の文系では誰にも負けなくなった。が、この躍進にはからくりがある。2年生の模試は、各校ごと異なる進度を踏まえ、各科目の範囲が一定で止まっている。「今回の世界史は中世までですよ」といった具合だ。こうなると、2年生で理科と社会の復習が済んでいる僕にとっては有利である。また古典や英語はもともとできる方だったが、暗記をおおよそ済ませているので知らない単語が出なくなり、点数はめきめき伸びた。
しかし3年生、模試における順位や偏差値ががくっと下がり始める。理由は2つ。①世界史や倫理政経の出題範囲が高校の全範囲になったこと。これにより、塾などで予習をする人が強くなる。②数学が予想以上に伸びなかったこと。以上である。
しかし、焦ることはあまりなかった。計画通りに進めば、ちょうど12月末には全てが完成するはずだったからだ。予習を全く取り入れず、学校でやったことをできるようにする方針を世界史ではとっていたので、模試などで全く手がつかない問題が出るのは承知していた。
数学に関しては、大きな方針転換をした。具体的には裏技に手を出した。皆さんは「CT攻略本」なるものをご存知だろうか。これはことセンター試験に関して、問題の傾向や設問のパターンを踏まえ、必要なことを「暗記」するためのテキストである。このテキストに「理解」の要素はあまり多くない。要は「この問題が出たらこの公式を使え」というパターンを機械的に示す作業マニュアルみたいなものだ。本質的な理解をするのが勉強だし、暗記だけでは面白くないことはわかっていた。しかし、積分以来落ち込み切った数学の成績を上げるには仕方がなかった。苦肉の策である。理解をきちんとしようとして数学に取り組むと、どうにも時間がかかりすぎる。3年生の5月〜9月の勉強時間のうち、およそ半分を数学に捧げたが、一向に結果が出なかった焦りと、私立の滑り止め受験及び浪人が禁じられていた状況は著しく逼迫していた。
コツと思い出
受験勉強に関してはいくつかの思い出がある。まず場所について。
繰り返しになるが、塾に通っていなかった僕は予備校の自習室などを活用できない。したがって「勉強をするためだけの場所」を持っていなかった。しかし、これは結果として大きくプラスに作用した。
自分の主な勉強場所は、①学校の図書館 ②放課後の教室 ③カフェ ④市営の図書館 ⑤実家の自室 ⑥実家の妹の部屋 この6つだ。⑥を不審に思うことなかれ。当時僕の妹(二人いるうちの下の子)は小学生であり、部屋を与えられながらも睡眠は両親と同じ寝室でとっていたのだ。これ幸いと、僕はその部屋を占居し、勉強道具以外持ち込み禁止の学習ルームに仕上げた。
これがどうプラスに働いたかというと、それは気分転換の容易さである。勉強が可能な場所をいくつも持っておくことで、集中力に陰りが見えたときにはいつでも場所を変えることができる。自宅内でも切り替えが可能だ。これにはものすごく助けられた。この気分転換作戦も本書から得たヒントだ。トータルで見るとカフェにかかった代金は塾費用に匹敵するような気もする。
次に、勉強法。
基本的には前述のような戦術で勉強を進めるわけだが、1日のノルマが明確に決まっているので、それが終われば自由の身である。そこで追って勉強をすることはない。なぜなら計画通りに進めれば確実に12月に全てが完成するからだ。余計な学習は計画を妨げる。(もっというと、毎週日曜日をその週達成できなかったことの処理日に設定していたので、多少の遅延は週ごとに消化できた。)したがって、残った時間は寝たり、本を読んだり、当時の彼女や友人に勉強を教えたりしていた。もっとも、数学に関しては教えてもらうことの方が多かったけれど。これは非常に有意義だった。ただの自慢だけれど、おそらく、当時の僕はそれほど焦って勉強に打ち込むようには見えなかったはずだ。
結果
センター試験の点数
・国語 190/200 ・英語 200/200 ・リスニング 46/50
・数学1A 88/100 ・数学2B 38/100
・生物基礎 46/50 ・化学基礎 48/50
・世界史 92/100・倫理政治経済 82/100
センター試験合計 780/900 約86.7%
小数点の計算や点数の微妙な違いはあるかもしれないが、おおよそこんな数値だった。目標を大きく上回ることに成功する。
ひとつ書いておきたいのは、このセンター試験当日まで、点数がトータル80%を超えたことは1度たりともなかったことだ。だんだんと点数を伸ばす同級生を何度も羨ましく思ったものだ。しかし、あくまで自分の勉強法は、センター当日に目標達成することをゴールにしていたから、羨ましくは思っても焦ることはなかった。受験は人に勝つことが目的だが、そのための勉強はあくまで自己完結する。
この結果いわゆるブロック大に入ることができたし、東京での一人暮らしも始められた。センター利用でMARCHの特待生も決まっていたので、2次試験当日に過剰な緊張もしなかった。流石に特待生なら私学にもいける。僕の受験はセンター試験で全てが決まったと言っても過言ではあるまい。
センター後、もっと上の大学を受けるように色んな先生に言っていただいたが、それは見込み違いの過剰評価である。旧帝以上のレベルはセンター試験の点数がだいぶ圧縮されてしまうし、場合によっては2次試験で数学が必要になる。裏技に心を売った僕にそんな問題は到底解けない。そして何より、自分の計画はブロック大に合格することがゴールだった。ここまで順調に進んだ計画を最後の最後で壊したくはなかった。
おわりに
本の紹介とは全く関係ない書き物になってしまったが、自分の受験をここらで振り返りたくなったので、相当な分量を書いた。全部を読む物好きはきっといないだろうが、自慢話のようになってしまったことをここで謝らせて欲しい。
それでも、結局何かのゴールに向かって進む際に重要なのは計画である、ということを伝えたい。計画に問題がなければ、それを作った時点でその目標の8割達成されると僕は思う。そして計画づくりには、ゴールまでの時間の多くを費やしていいのだ、とも思う。はじめの計画づくりには時間を使っても使いすぎることはない。絵に描いた餅にならなければ。
振り返れば、中学時代あれほどサッカー部で練習したのに、少しも結果が出なかったのは、きっと計画がうまくいってなかったからだと思うし、就職活動が満足できる結果に終えられたのは、計画がきちんと建てられたからだろう。
これからも、自分は何かのために計画を立てることを愛するし、それには時間を惜しまない。これが僕の正攻法だからだ。でも、もしかしたら、再び数2Bが僕の邪魔をするかもしれない。計画通りにいかず、悩むことがあるかもしれない。そうなったらどうすればいいか。答えはもう知っている。裏技を探すのである。