森の雑記

本・映画・音楽の感想

ジャーナリズムの可能性 批判的であれ

ジャーナリズムの可能性 

批判的であれ

 

はじめに

 ブックオフに立ち寄って本を物色していたところ出会ったこの本。自分のこれからを考えるうえで読んだほうがいいかな、と思い購入した。原寿雄さんが岩波新書から出版したものだ。岩波新書と言えば、最近は「独ソ戦」で有名だが、発行元であるところの岩波文庫は委託返品制度を使わない出版社としても有名である。そのため岩波文庫の本は、大きな書店でなければ基本取り寄せ対応になることも多い。近所のどの書店を見ても「独ソ戦」が見つからず、店員さんに問い合わせた際この説明をされて知った。

 

全体をみて

 2009年に出版された本書の内容は、そのほとんどがジャーナリズム批判である。タイトルに騙されました。当時の新聞、テレビを中心とするジャーナリズムに対する批評を展開しながら、その発展の方向性を考える著者の意見には、もちろん納得できる部分もあったが、相容れない部分も多かった。どの新聞社にも批判的である点は素晴らしい姿勢だけれど、少し読売、産経に当たりが強いような気もする。

 

1章 権力監視はどこまで可能か

 2007年の大連立構想に対するマスコミの距離感を発端として、権力とジャーナリズムの距離感を考える章。批評する相手でありながら情報源でもある公権力とメディアはいかに関わればよいのか。北海道新聞高知新聞の例には多くのことを考えさせられた。

 

2章 強まる法規制と表現の自由

 裁判に関する節が印象的だった。思慮深く読む必要が多分にある本書だが、著者の意見はともかくとして、あげられる事例については知っておいて損はないと感じる。

 表現の自由は自分のゼミ論文のテーマでもあったため、興味深く読めた。

 

3章 ジャーナリズムの自律と自主規制

 自己検閲と自主規制は違うと論じながら、前者を否定的に、後者を肯定的にとらえる考えから始まる章。マスコミ界でタブー視されがちな、「菊と星と鶴」の話は少し面白かった。こういう業界用語的なものは、どの業界もひねりをきかせているからしゃれている。

 

4章 放送ジャーナリズムを支えるもの

 ゼミの調査とがっつりバッティングした章。NHKの在り方や、映像メディアの影響力などはもっと多くの人が問題意識を持ってもいいのかな、とも思う。

 

5章 世論とジャーナリズムの主体性

 光市母子殺害事件を例に出し、世論形成とメディアの関係を論じる章。メディアは世論形成に影響するが、世論もまたメディアの在り方を方向づけることがある。お互いに干渉しあう関係は是か非か。世論に影響されすぎず、必要なことを訴えていくのもまたジャーナリズムの役割ではないか。

 

6章 ジャーナリズムは戦争を防げるか

 諸外国に見られる、「戦争の民主化」などを引き合いに、戦争とマスコミのかかわりを考える章。コンベット方式とストックホルム症候群の事例には、なんだか寒気がした。報じる側と取材相手の関係は、犯罪者と被害者に匹敵するくらい特殊な間柄になることもある。

 また、利益とジャーナリズムの関係「ペンとパン」問題にもこの章で触れている。

 

7章 ジャーナリズム倫理をいかに確立するか

 コンプライアンスにこだわりすぎないことを主張する章。慎重に読みたい。

 

おわりに

 著者はジャーナリズムに対し、かなり批判的な視線を送っている。このような批判的な姿勢はジャーナリズムそれ自体にも必要だと思う。ただ、「批判的」であることを説き、人に勧める際には、自らのその考えもまた、批判にさらされることを覚悟しなくてはいけない。批判する目線と、批判される姿勢、この両方をもった人間になりたい。