森の雑記

本・映画・音楽の感想

星の王子さま 世界でいちばんうつくしい小説

星の王子さま 

世界でいちばんうつくしい小説

 

はじめに

 絵本のような、詩のような、それでいて哲学書のようなこの小説との出会いは中学生のころだったと思う。当時は単純に不思議な物語として読んだ。高校生になり再読。今度は何とも示唆的で、美しい考え方を教えてくれる本だと感じた。そして現在。きっともう少し「大人」になった自分は、この作品にどのような感情を持つのか。そんな興味から、「星の王子さま」を三度読む。

 

全体をみて

 こんなに短かったのか、と驚いた。法律の勉強を通して、文章を読むスピードが速くなったことも理由の一つだろう。しかし、何度も読んだ小説の「主要でない」と判断した部分を無意識に読み飛ばしたのが大きな原因だと思う。気づかぬうちに、実用的だとか、効率的だとかそんなことを気にする「大人」に自分がなっていることに気づく。王子さまが嫌ったのはそんな人間ではなかったか。

 

好きな場面

①44回目の夕日

 淋しいときは夕日をみると語る王子さま。パイロットは、44回も続けて日が沈むのを見たという王子さまに尋ねる。「きみはそんなに淋しかったの?」彼は何も答えない。

 王子さまは具体的な質問にはあまり答えてくれない。ときおり思い出したように、一方的に自らのことを語っては口をつぐむ。

 

②「自分を裁くのはどこにいてもできます。」

 王様の星を訪ねた王子さま。王は彼を法務大臣に任命。王と王子さま以外誰もいないこの星で、王子さま自らを裁くことを命令。「自分を裁くのは他人を裁くよりむずかしい。」

 『君たちはどう生きるか』にも出てきたモチーフだが、なにか恥ずべき行為をした際、人は言い訳や合理性を主張する。それでも、本当はどうすべきか、は本人が一番わかっている。良心さえあれば自己を省みるのはどこにいてもできる。ただ、それが一番難しい。

 

③星を預ける

 ビジネスマンの星では、「すべての星は自分のもの」と豪語する男と出会う。「星は持ち物ではない、その証拠に、星は持ち歩けない」という王子さま。ビジネスマンは、自分が持っている星を紙に書き留め、鍵付きの引き出しにしまっておくことで、星を銀行に預けられる、と説明。

 何を示唆しているのか、考えたけれどわからない。でも、星を書き留めて預けるという表現は何とも素敵だと思いませんか。

 

④もちろん黒人の王様も忘れないようにして

 地球には111人の王様がいる。と話す王子さま。その直後かっこ書きで出てくるのがこのフレーズ。

 これは人権や差別に配慮したものなのか。いまではこのかっこ自体が差別的であると判断されそう。当時できる精一杯の人間への愛情表現がここに現れる。

 

⑤キツネと王子さま

 作品屈指の名場面。いくつもの印象的なフレーズが現れる。その中でも、「習慣」についてキツネが話す場面にはいろいろなことを気づかされる。習慣があることで、日常に予測可能性が生まれる。次に何をすべきかわかっている状態は、不安を取り除く。フリーな状態で放り出されると人は落ちつかない。

 

⑥子供は運がいい

 自分が何を探しているか知っているのは子供だけ。と語る転轍手。旅行という名の移動を大人はするけれど、何かを追いかけるわけではない。移動中目を輝かせているのは子供だけ。大人は寝る。

 はっとした。大人の旅行は非日常を味わうという名目のもとの、現実逃避なのかもしれない。仕事、大学、家庭、様々な現実に我々はむしろ追われている。気づいた時にはもう遅い。追われていることに気づけるのもまた、大人だけだ。不運にも、子供には戻れない。

 

おわりに

 読むこと三度目にしてこの作品は、詩であり予言書だと感じた。抽象的で綺麗な言葉達には多すぎるほどの解釈の余地があるから、誰しもが自分のどこかに当てはめることができる。過去の自分にも、いまの自分にも示唆を与えるこの小説は、きっと未来の自分にもメッセージを送っている。

 余談だが、集英社文庫から出版された「星の王子さま」の訳者あとがきは、あとがき界屈指のモノであると思うから是非読んでほしい。