一瞬で大切なことを伝える技術 無駄な会議にさよなら
一瞬で大切なことを伝える技術
無駄な会議にさよなら
はじめに
人間がある程度年をとると、ミーティングなるモノを経験する。そしてミーティングが、「これって意味があるのか?」と思わせられるものであることも、誰しも一度は経験する。何を決めるのかもわからない会議、個人が見解を述べるだけの話し合い。こういったものに無駄を感じてきた人は多いだろう。
本書は東大卒で社会人教育に携わる三谷さんが、上記のような無駄を省き、必要なことをきちんと伝えるコツをまとめたものである。
全体をみて
この本は一行でまとめるとすれば、「何が、なぜ重要かをはっきりさせ、相手に発信する、もしくは受け取るのが大事」とまとめられる。そのための技術、マインドセットを4つのステップ+上級編に分けて解説するのが本書の役割だ。
レイアウト、図、繰り返しなど、読みやすい工夫が随所に用いられており、さすがは伝える技術を説くだけあるな、と思わされる。
STEP1 はっきりさせる
ある結論を述べるとき、人は根拠を探す。例えば、「なぜコカ・コーラは他の炭酸飲料より売れているのか」を結論付けたいとき。広告戦略、味、品質、売り方など、根拠は挙げればきりがない。こうした時に筆者は、根拠の中で最も結論とのつながりが強いモノを見つけなければならない、と説く。上記の根拠たちは、大なり小なり売り上げに寄与していることは間違いない。ただ、コーラを品質重視で買う人は決して多くないだろう。であれば、コーラが売れている、という結論を出すのに、品質のことを持ち出す必要はない。根拠群の中でも、結論への「重み」が強いものを探しなさい、というわけである。
その根拠が見つかれば、あとはそれが他のモノよりいかに優れているか、という「差」を考えれば、説得力のある主張ができる。先ほどの例でいえば、「炭酸飲料の売り上げに影響するのは、80%がコマーシャルである。コカ・コーラのCM費用は、他社の平均より5倍多い。だから、コカ・コーラは売れる。」というような主張がたつ。
この例は数字も内容もでたらめだが、少なくとも、大切なことを伝えるのには、主張や意見にとって「重要」なことを見極める必要がある。筆者からはこの考え方が「重要思考」と名付けられ、ロジカルシンキングより実践しやすい方法だとして紹介される。
本書の内容はこれが始まりであり、全てである。残りはこの思考の実践を紹介する章になる。いくつかの因果関係が複雑に連鎖している場合や、重要さが複数の事項に等しく分布する場合など、端的に重要思考を実現できない場面も想像できるが、この本は入門編ということで、ひとつ読み進めていこう。
STEP2 伝える
話し方のコツでよく聞く、「結論から言う」技術。本書ではこの技術を、結論を先に言うことで、そのあとに必要十分な根拠を述べるための方法に位置付ける。僕たちはしばしば、あることをに要求する際に、背景、経緯、周りの意見、感情など、多くのモノをごちゃまぜにして先に話してしまう。これでは相手に、なにかゴタゴタが起きた結果、この要求をしてきたんだな、くらいにしか伝わらない。結論を述べ、その根拠となる事項のうち、最も重要なものを話す。何かを伝える際にはこれで十分だ。人の脳はいくつものことを同時に記憶しておけるほど優秀じゃないから、重要なひとつに絞って伝えるくらいがちょうどいい。
こうした方法の中の高等テクニックとして、「結論を相手に言わせる」というものがあるそう。意見が必要十分にまとめられ、かつ適切に相手に伝わっていれば、相手も自分と同じ結論にたどり着くはず。であれば、それを相手に言わせることで、より結論を信じてもらうことができる。交渉術で「自己説得」と呼ばれる技術だそう。
STEP3 理解する
自分が話す時だけでなく、相手の話すことも「重要思考」で聞く。アクティブに、かつ自分の意見を挟まずに聞く。こうしたことの重要性を説く章。
相づち、要約、質問など、効果的なリスニングができれば、相手の中でも思考が整理され、「重要思考」に導くことができる。というと簡単そうだが、実際は自分の意見を混ぜてしまったり、誘導尋問的な質問をしてしまったりと、なかなか難しい。また、自分の言ったことを別の言葉で言い換えられるのは、誰しもいい気がしない。感情的配慮ときちんと話を「重要」な方向にもっていくことを両立するのは意外と訓練が必要だ。
STEP4 会話、議論する
これまでで培った技術を、複数人数の会話に応用する章。会議や議論の無駄を省く方法として、5つのルールを挙げる。
①プレゼンターは簡潔な文章でまとめ、みなは終わりまで聴く。
②質問をする前にみなで3分考える。
③勝手に話さない、ダイジなコトからズラさない。
④賛否を示し、「コメント」とかに逃げない。
⑤決め方を決めておき、雰囲気で決めない。
それぞれのルールに逆行する場面が会議ではよく見られる。他人の意見に便乗して勝手に話し、会話の方向をそらしたり、立場が上の人がありがたい経験談をコメントとして挟んだり、議論が中途半端な状態で多数決をとったり、もはや見飽きたシチュエーションだ。こうした状況は、議論の本質をあいまいにするし、「雰囲気」という名の同町圧力で意思決定がなされる危険性を生む。
こうした事態を避けるべく、5つのルールをきちんと設けましょう、という話。
(日産はゴーン氏のもと、会議を指揮するファシリテーターを1000人以上養成し、業務を改善した。という例がこの章であげられるが、ファシリテーターの養成が日産復活に「重要」であったかどうかの根拠がない点は若干不満。まあ、この根拠は本書にとって重要でないということだろう。)
上級編 ほめる つなぐ
「重要思考」を人や自分にほめることや、マーケティング施策等に応用する方法を示した章。内容は割愛する。
おわりに
小学校のころ、校長先生の話が退屈だったのは、結局何が重要なのかもわからず、ただただ話を聞いていたからだろうし、そういう話し方を彼/彼女がしていたからだろう。「今日は3つのことをお話しします。」はもう時代遅れだ。人を退屈させるような話をする人間にはなりたくない。重要なことは、ひとつだけ。