CRYAMY 「月面旅行」
CRYAMY 「月面旅行」
はじめに
好きなアーティスト花譜のインタビュー記事を読んでいたら、好みのアーティストとしてCRYAMYというバンドを挙げていた。 https://rockinon.com/interview/detail/190251
これが僕とCRYAMYの出会いだった。まずバンド名が読めない。クライエイミー?とか思いつつ、つづりをそのままで検索ボックスに入れ込む。すると、「クリーミー」という読み方とともに、様々な楽曲が出てきた。「テリトリアル」「普通」「物臭」「ディスタンス」なんだか気になるタイトルの曲ばかり。その中にひときわ美しいサムネイルの曲を発見。この曲が「月面旅行」だった。
幻想的なタイトルに引き寄せられ、再生ボタンを押す。
「月面旅行」
砂浜の上に立つ4人。再生時間は7分26秒。
そして歌いだし。
「世界は毎日変わっても 誰かは他人と暮らしても
余程のことではない限り 誰も死なずに済んでいる」
よくある、世界は自分と関係なく回り続ける的な歌詞かあ、と少しがっかりしたのもつかの間、「誰も死なずに済んでいる」。
なんだかドキッとさせられる。新型コロナウイルスが流行し、急速に世界は変化している。でも、身近に被害者がいないせいか、どこか他人事のようにも感じる。こんな自分の現状を知っているかのような歌詞。一人暮らしをいったんストップし、実家で家族と暮らす自分がぐっとこの曲に吸い込まれる。
「コロナで人は死ぬけれど、それを悼むのは生きている人たちで、そんな世界でお前たちは生きているんだろう?」と、BENDAVISのセーターにle coqのジャージを着た男が語りかけてくる。
冒頭の弾き語りが終わり、サウンドが鳴り始める。激しく、それでいて浮世離れした音。音楽の知識があまりないから、この音を表現できないのが悔しい。続いて、コーヒーにフレッシュを落としたような「CRYAMY」のバンドロゴが表示される。
そのあとも「剥がれた夜空の向こう側」「三年おきの後悔」など印象的なフレーズが彼の口から発せられていく。こういう歌詞作れちゃう人ってどういう感性してるんでしょうね。ヨルシカの「夜に浮かんでいた クラゲのような月がはぜた」とかもそうだけど。
ついで、おそらく誰かと別の道を歩むことになったのであろう、別れを嘆く歌詞が続く。歌ったメロディーを間奏でギターが追いかけるのもまたかっこいい。
そしてサビ。冒頭のフレーズが繰り返される。他人と暮らした「誰か」は別れた「あなた」のことだったのか。この歌詞の宛先が次第にわかってくる。冒頭にはなかった、「だろう」の言葉を加えて、曲は一息つく。別れた人のことなんて、きっと想像しかできないから。
曲の間ギターボーカルのカワノは終始暴れている。落ちている酒の缶を投げる、ライターも吸おうとしたたばこも投げ捨てる。ギターもマイクも放り投げる。唾を吐く。髪は長すぎるし、癖気味。それでも曲が進むほど、この男がかっこよく見えてくる。
そして後半。歌いながらメンバーの元を離れたカワノが、ギターを拾い上げて戻ってくる。そして歌う。砂浜のでこぼこが、だんだん月のクレーターに見えてくる。
「消えるのなら 後は追わせてね」
彼にとっては、「あなた」が消えることは「余程のこと」だから。
そしてラスト、再びギターをぶん投げたカワノ。前半ギターで繰り返されたメロディーを優しく歌って曲が終わる。
「月面旅行」の意味
地球でどんなことが起こっても、変わらず周り続ける月。地球から消える、すなわち死後、夜にいなくなった「あなた」は月に行く。それを追いかけて、月へ。変わらず周り続ける月で再会したい。
こんな気持ちを月面旅行というタイトルに込めたのかなあ、と妄想。
おわりに
CRYAMYのほかの曲も聞いたけれど、どれも非常にいい。トリッパブルな曲ばかりだ。この「月面旅行」は2ndアルバムに収録されているみたいなので、早速買いたい。このご時世、音楽を仕事にしている人は大変な面もあるけれど、音楽は発信者とどれだけ距離があっても届く。こんな出会いを大切にしたいと思う。余程のことはいつ起きるかわからないから。