森の雑記

本・映画・音楽の感想

CRYAMY 「月面旅行」

CRYAMY 「月面旅行」

 

はじめに

 好きなアーティスト花譜のインタビュー記事を読んでいたら、好みのアーティストとしてCRYAMYというバンドを挙げていた。  https://rockinon.com/interview/detail/190251

 これが僕とCRYAMYの出会いだった。まずバンド名が読めない。クライエイミー?とか思いつつ、つづりをそのままで検索ボックスに入れ込む。すると、「クリーミー」という読み方とともに、様々な楽曲が出てきた。「テリトリアル」「普通」「物臭」「ディスタンス」なんだか気になるタイトルの曲ばかり。その中にひときわ美しいサムネイルの曲を発見。この曲が「月面旅行」だった。

 幻想的なタイトルに引き寄せられ、再生ボタンを押す。

 

「月面旅行」

 

youtu.be

  砂浜の上に立つ4人。再生時間は7分26秒。

 そして歌いだし。

 「世界は毎日変わっても 誰かは他人と暮らしても

  余程のことではない限り 誰も死なずに済んでいる」

 よくある、世界は自分と関係なく回り続ける的な歌詞かあ、と少しがっかりしたのもつかの間、「誰も死なずに済んでいる」。

 なんだかドキッとさせられる。新型コロナウイルスが流行し、急速に世界は変化している。でも、身近に被害者がいないせいか、どこか他人事のようにも感じる。こんな自分の現状を知っているかのような歌詞。一人暮らしをいったんストップし、実家で家族と暮らす自分がぐっとこの曲に吸い込まれる。

 「コロナで人は死ぬけれど、それを悼むのは生きている人たちで、そんな世界でお前たちは生きているんだろう?」と、BENDAVISのセーターにle coqのジャージを着た男が語りかけてくる。

 

 冒頭の弾き語りが終わり、サウンドが鳴り始める。激しく、それでいて浮世離れした音。音楽の知識があまりないから、この音を表現できないのが悔しい。続いて、コーヒーにフレッシュを落としたような「CRYAMY」のバンドロゴが表示される。

 

 そのあとも「剥がれた夜空の向こう側」「三年おきの後悔」など印象的なフレーズが彼の口から発せられていく。こういう歌詞作れちゃう人ってどういう感性してるんでしょうね。ヨルシカの「夜に浮かんでいた クラゲのような月がはぜた」とかもそうだけど。

 ついで、おそらく誰かと別の道を歩むことになったのであろう、別れを嘆く歌詞が続く。歌ったメロディーを間奏でギターが追いかけるのもまたかっこいい。

 

 そしてサビ。冒頭のフレーズが繰り返される。他人と暮らした「誰か」は別れた「あなた」のことだったのか。この歌詞の宛先が次第にわかってくる。冒頭にはなかった、「だろう」の言葉を加えて、曲は一息つく。別れた人のことなんて、きっと想像しかできないから。

 

 曲の間ギターボーカルのカワノは終始暴れている。落ちている酒の缶を投げる、ライターも吸おうとしたたばこも投げ捨てる。ギターもマイクも放り投げる。唾を吐く。髪は長すぎるし、癖気味。それでも曲が進むほど、この男がかっこよく見えてくる。

 

 そして後半。歌いながらメンバーの元を離れたカワノが、ギターを拾い上げて戻ってくる。そして歌う。砂浜のでこぼこが、だんだん月のクレーターに見えてくる。

 「消えるのなら 後は追わせてね」

彼にとっては、「あなた」が消えることは「余程のこと」だから。

 

 そしてラスト、再びギターをぶん投げたカワノ。前半ギターで繰り返されたメロディーを優しく歌って曲が終わる。

 

「月面旅行」の意味

 地球でどんなことが起こっても、変わらず周り続ける月。地球から消える、すなわち死後、夜にいなくなった「あなた」は月に行く。それを追いかけて、月へ。変わらず周り続ける月で再会したい。

 こんな気持ちを月面旅行というタイトルに込めたのかなあ、と妄想。

 

おわりに

 CRYAMYのほかの曲も聞いたけれど、どれも非常にいい。トリッパブルな曲ばかりだ。この「月面旅行」は2ndアルバムに収録されているみたいなので、早速買いたい。このご時世、音楽を仕事にしている人は大変な面もあるけれど、音楽は発信者とどれだけ距離があっても届く。こんな出会いを大切にしたいと思う。余程のことはいつ起きるかわからないから。