森の雑記

本・映画・音楽の感想

思考の整理学 ひらめきは寝て待て

思考の整理学 ひらめきは寝て待て

 

はじめに

 「ちくま」という月刊の小さな雑誌をご存じだろうか。僕は中学時代からこの雑誌のファンである。まだ小学生の時、祖父の書斎でみつけた、岸本佐知子著のエッセイ集「ねにもつタイプ」を読み、これほどおもしろい文章が世の中にあるのか、子供ながら感心した。時がたって中学生になり、彼女のエッセイ「ねにもつタイプ」が前述の雑誌で連載されていることを知った。幸運なことに、母校の図書館ではこの雑誌を定期購読してくれていたから、晴れて彼女の連載を追いかけられるようになったのだ。あの雑誌をまとめて何冊も借りていたのは、おそらく自分だけだったと思う。購読雑誌に「ちくま」を選定してくださった司書の方には大きく感謝している。

 ちなみにこの雑誌には、穂村弘さんの連載、「絶叫委員会」などものっており、次の号が出るのを毎月楽しみにしていた。

 この雑誌を発行する会社、筑摩書房と出会ってからはかれこれ9年がたつ。先日、そんな筑摩書房Twitterアカウントが、「#みんなの思考の整理学」という謎のハッシュタグリツイートし始めた。何やら「思考の整理学」という本を販促するような試みらしい。

 どんな本か調べてみると、英文に水を注ぐイラストが描かれた表紙がまず目に入る。まずこの表紙にさされる。非常に筑摩書房っぽい。そして「東大、京大で最も読まれている」という煽り文句に、否が応でも興味がわく。

 こうしてこの本を手に入れるべく書店に足を運んだ。けれども、どこを探しても見つからない。やはり東大生でも京大生でもない自分にはふさわしくない本なのか。と思いつつ、目に留まった中央公論新社刊「日本語の個性」を買って帰った。これはこれで面白く、あっという間に読み終えてしまった。

 しばらくたち、別の書店でようやく「思考の整理学」を発見。意気揚々と読み進める。1つのエッセイが短くまとまっており、非常に読みやすい。が、少し違和感を覚える。この内容、どこかで読んだことがある。本棚から何冊か引っ張り出してようやく気付く。この本の著者は「日本語の個性」の著者と同一人物ではないか。

 なんということでしょう。目当ての本の代わりに買った本は、偶然にも同じ人の著作だったのだ。実際に書店へと足を運ぶことはこれだからやめられない。なんだか感動的な偶然を味わえたことに、少し幸せになった。

 

全体をみて

 ここまで前置きが長くなったが、やはりこの本、100刷以上増刷を重ねているだけあって、非常に読みやすく、おもしろい。「思考」をより深める技術が一冊に凝縮されている。コンピューターの出現、人間に求められる役割の変化など一見古臭く感じられる内容も、コンピューターをAIに置き換えて読めば参考になるところが多い。

 1983年に刊行された本だが、外山滋比古さんのアイディアは全く色あせることがない。

 

好きなパート

 前述の通り、この本はいくつかのテーマに沿ったエッセイをまとめたものである。

 以下、気に入ったパートをあげる。

 

①グライダー(p10)

 現代の教育は先生と教科書に先導されて行われる部分が多すぎる。そのため自力で飛び上がることのできない、「グライダー」のような子供が多い。社会で必要なのは「飛行機」的人間である。

 40年ほど前に書かれたものとは思えない。結局自分が受けた教育も誰かに教え込まれて知識を習得するものであった。でも、少しづつは変わってきているのかな、とも思う。大学受験の世界史論述、大学でのゼミ活動など、自分で持っている知識を活用し、ひとつの解釈となる知見を作る勉強もないではなかった。

 

②エディターシップ(p48)

 「全体は部分の総和にあらず」

 ある単独の発想や知識をまとめて文章等にしたのが第一次的創造だとすれば、それらをつないだり、並べ替えたりするのは第二次的創造だといえる。源氏物語アラビアンナイトがすぐれている点は、前者よりむしろ後者的才覚に拠るところが大きい。

 ある知識を「編集」する意義を語ったパート。インターネットを通して一次情報が即座に手に入る時代において、情報群をエディットしてストーリーにする力は確かに必要な気がする。

 

③手帖とノート(p97)

 なにか考えが浮かんだ時、すぐに飛びつかず、一度寝かせる必要を説いた章。

 この本では、発想を寝かせることの効用が何度も強調されている。ただ、寝かせるといっても頭にずっと残っていては寝かせたことにならないから、一度ノートに書き写して、頭から離してしばらく放っておくのがいいらしい。勢いよく書き上げた文章や、思い付きで始めたアイディアがうまくなかった、という経験は誰にでもあるだろう。

 

④ホメテヤラネバ(p146)

 「ピグマリオン効果」をしっているだろうか。ざっくりいうと、実力に根拠がなくとも、ほめることで能力が上がりやすくなる、効果のことだ。

 ひとに何かを教えたり、アドバイスする際、僕たちはよくない部分を指摘して改善させようとすることが多い。しかしこの時、ほんの少しでもいいから、たとえ良いとこが見つからなくとも、何かしらをほめることで能力向上の効率があがる。

 たしかに、ほめられたほうがやる気も出る。得意だと感じたことは伸ばそうとし、苦手なことを避けたくなるのは人間の性である。

 

おわりに

 今回は前置きが長くなったが、本を読んでから、ここに書きたいアイディアをしばらく寝かせたところ、筑摩との出会いも書きたくなってしまった。そのため間延びした文章になってしまったが、悪いところばかりに目を向けず、ひとつ、いいところを見つけてほめてもらえれば、と思う次第だ。