森の雑記

本・映画・音楽の感想

アイデアスケッチ

イデアスケッチ

イデアを〈醸成〉するためのワークショップ実践ガイド

 

はじめに

 画期的なアイデアを出すのは難しい。ある課題を解決しようと頭を捻っても、出てくるのは以前にも見たようなものばかり。時折新しそうなものが思いついても、既存物のマイナーチェンジにしかすぎない。いわゆる「ブレインストーミング」にチャレンジしてもうまくいかず。僕たちはしばしばこんな場面に出くわす。新しくて素晴らしい発想を得るのは難易度が高く、これがホイホイできるなら何らかの分野で大成功しているに違いない。

 「アイデアスケッチ」(BNN新社)は、このような悩みに立ち向かうために役立つ本のうちの一つだ。岐阜県にある小さな学校「IAMAS」で実践されてきたアイデアスケッチのメソッドを知れば、僕らもアイデアマンになれるかも。

 

全体をみて 

 装丁がおしゃれ。レイアウトも見やすい。なんともコンテンポラリーな本である。ただ、文章が読みにくい。本書のメイン著者は英国出身のジェームズ・ギブソンさんなのだが、彼が書いた日本語、もしくは彼の書いた英語を翻訳した記述が「Googleの自動翻訳」もしくは「受験生が行う不自然な和訳」見たいな感じだからだ。もしギブソンさん自ら日本語で書いているとすれば、これはネイティブではないのによく書けている、むしろ素晴らしく上手な日本語だと思う。しかし出版にたえるレベルではないのでは。

 本書は3章構成である。1章では「アイデアスケッチ」とは何か、が背景や成立過程こみで語られる。2章では具体的な実践方法、3章では実際にアイデアスケッチが使用されたれいが、それぞれ書かれる。

 前述した文章の堅さが気になるのは1章のみで、本書でもっとも重要な2章はそれほど気にならないのが救い。

 以下、各章について。

 

第1章 アイデアスケッチの方法論

 アイデアスケッチの来歴、利点などが書かれる。時間がない方は読み飛ばしても。

 

第2章 アイデアスケッチの実践

 アイデアスケッチのやり方について。ここでは僕なりに要約。

1 ペン4種(細・太・ハイライト・影)とワークシート3種を用意。

2 アイデアスケッチに参加する人数が十分に動きやすい部屋を用意。

3 参加者をセッティング。半日ほどスケジュールを抑える。できれば様々な分野の人を集めたい。

4 1種目のワークシートを用いて「アイデアスケッチを行うテーマ」を絞る。

5 2種目のワークシートにアイデアを「絵で」描いていく。

6 それぞれのアイデアに投票。

7 アイデアを「実現可能か」「実行可能か」のマトリクスを使い4象限にマッピング

ざっとこんな感じ。具体的なワークシートのフォーマットなどは本書を読まれたい。なお7の「実現可能」とは「技術的に実現可能か」を指し、「実行可能」は「組織のリソース的に実行可能か」を指す。

 こういうワークショップ的なアイデア出しを説く本では、必ず部屋にお菓子や飲み物を置くことが勧められている気がするが、本書も。

 

第3章 アイデアスケッチの事例紹介。

 実際にアイデアスケッチセッションが行われた事例を5つ紹介。中でも「電車の椅子をより快適にするにはどうすればいいか」というテーマは身近で面白かった。

 

おわりに

 かなり面白いアイデアの出し方、新しいブレインストーミングの形だと思った。チャンスがあればやってみたい。

メガマインド

メガマインド

 

はじめに

 Twitterに日記漫画を投稿する秋鹿えいとさんが、2020年に見た映画のベスト4を発表していた。

  どれも面白そうだったので、順番に見ようと思い立つ。まずは青い顔のイラストが気になる、「メガマインド」から。

 

全体をみて

 「メガマインド」は「マダガスカル」や「カンフーパンダ」でお馴染み、ドリームワークス制作の映画だ。ドリームワークスはディズニーの制作部門トップが退社して作った会社らしい。調べて初めて知った。

 いわゆるアメリカのアニメーション映画っぽさがありながら、意外な展開がアクセントになる作品。主人公でヴィランのメガマインドは、どこかスポンジボブイカルド・テンタクルズっぽさがあって親しみが持てる。キモいけど。

 公開年をみてみると、実は2010年。かなり前の作品である。全然古びてない。ストーリーにご都合主義感はだいぶあるけれど、むしろこのくらい都合がいい方が頭を空っぽにして楽しめるので良いのだろう。

 以下、ネタバレに注意しながら見所を。

 

設定

 「もし悪役がヒーローを倒してしまったら?」誰もが一度は考えるIFを作品に昇華してしまうのがこの映画のすごいところ。ライバルを失ったヴィランはいったい何をしでかすのか、これまで視聴者の頭の中にしかなかった映像が、大手制作会社によって表現されるのが面白い。

 また冒頭でさくっと紹介される、「メガマインドが悪役になった理由」も考えさせられるところ。メトロマンという偉大なヒーローと幼少期にあった彼は、その外見からいじめに遭う。常に明るく、みんなに好かれるメトロマン、彼に虐げられるメガマインド、この段階ではどちらが悪かわからない。そんないじめに嫌気がさし、ヒーローとして、人気者として一番になれないことを悟った彼は、「悪」の道で一番を目指すようになるのだ。

 

メッセージ

 この作品の大きなメッセージは「いつだって悪は相対的なものでしかない」というところにあるのではないか。前述したメトロマンの存在しかり、物語が進むにつれてメガマインドに代わる悪が生まれることしかり、「悪」はいつだって絶対的に存在するものではなく、「正しい」とされているものの対極に位置付けられるものでしかない。

 それは「愛」についてもそうで、賛美され、皆から正しさを持って受け入れられる「愛」という概念でさえも、行き過ぎれば悪になる。物語の節々にこのようなエピソードをちりばめることで、悪について考えさせられるのもこの作品の推しポイント。

 

パロディ

 肩肘はった話はさておき、「メガマインド」には分かると笑えるパロディも満載。ドンキーコングバラク・オバマ、スーパーマン、至る所に有名なあれこれへのオマージュがある。多分僕が気づかなかっただけでもっとたくさんあると思うので、注意してみることをお勧めしたい。

 

声優、というか山寺宏一

 本作主人公メガマインドの声優は、あの山寺宏一である。「青くてお調子者のなんでもできる奴」の声優を山寺宏一がやっているのだから、アラジンファンの僕としては垂涎もの。言い尽くされているところだとは思うが、ポップな吹き替えをやらせたら彼の右に出るものはいない。

 

おわりに

 作品の時間も90分と短いので、「さくっと」「ハッピーになれる」「でもこれまでとは一味違う作品が見たい」と思ったら、まずはこの作品をみることを勧めたい。ディズニーやピクサーが好きならなおさら。

 

 

メディアが動かすアメリカ

メディアが動かすアメリ

民主主義とジャーナリズム

 

はじめに

 連邦議会トランプ大統領の支持者が占拠する未曾有の事件が起こった。この事件には死者も出てしまった。大統領はこの過激な行為を煽ったとしてツイッターなどのアカウントを停止された。まさに前代未聞、とんでもない出来事である。

 彼らは一体なぜこのような行為に及んだのだろうか。トランプ大統領に焚き付けられたから?選挙集計に不正があったから?暴力的にならざるを得ないほど生活が苦しかったから?理由はいくらでも考えられる。その中には「メディア」から発信される情報を過度に信じたり、逆に全く信じなかったり、「報道」が行動の意思決定に大きく影響した人もいるのだろう。

 アメリカ人はメディアをどのように捉えているのだろうか。そんなこと知るために、ちくま新書「メディアが動かすアメリカ 民主主義とジャーナリズム」(渡辺将斗著)を読んだ。

 

全体をみて

 様々な視点からアメリカとメディアの関係を考察する一冊。著者は米下院議員事務所や2000年の大統領選陣営ニューヨーク支部などで働いた経験を持つ、アメリカ政治のエキスパートである。この独特な経験が本書の記述に存分に発揮されている。

 挿入されるエピソードは実に具体的でわかりやすいし、論旨は明快で簡潔。元記者であるためか、取材力が非常に高く、それを文章かすることにも長けているのだろう。時折差し込まれる写真も、イメージを膨らます手助けをしてくれて嬉しい。

 僕のような素人にはかなりいい本だと思った。

 以下、各章について。

 

第一章 テレビニュース

 テレビ報道について。アメリカのニュース番組は限定された出演者がカメラに向かって語りかける「情報伝達」スタイルでなされる。記者出身のアンカーマンが各記者、リポーターをつないでいくような形式である。これに対し、著者は日本の報道番組を「演劇鑑賞」スタイルと呼ぶ。コメンテーターと司会者、出演者の掛け合いを見せるからこう呼ぶのだが、言い得て妙。

 また日本でニュースを伝える「アナウンサー」とアメリカの「アンカーマン」は大きく異なるとも。前者はジャーナリストではないことも多いが、後者はほぼ必ず記者あがりである。アメリカのアンカーマンには番組の編集権など、構成に関わる大きな権力を持っており、まさに報道人なのだ。このことによる弊害もあるそうなのだが。

 

第二章 政治

 今度は政治のお話。著者のアメリカでの経験が存分に発揮される章である。

 この章で面白かったのは日本の「番記者」制度についての記述。極めて閉じられたこの制度は「記者クラブ」制度とも異なる「3層構造」を持つと著者。メンバーシップをかなり強く求めること。メンバー内では公式に得られる情報に差がないこと。他社を「抜く」ためには個別の努力がいること。つまり「排他・建前としての横並び・水面下での競争」という3層構造が形成されているようだ。このメンバーシップに入るためには、1人の人間を特定の人物に張り付かせておくだけの経営資源がないと厳しい。

 バーバラ・スター記者の話も面白い。ペンタゴンに独自のコネクションを持つ彼女は、得た情報をすぐに流すことはない。そのため国防総省よりだと批判されることもある。しかし外交やインテリジェンス類型に携わる記者には、会社も権力批判を求めていない。求めるのは、スターのような記者が得た情報を社内でのみ横流しすることで、別のニュースを補強する役割だ。話す側も彼女が情報ソースを出さないことをわかっているから、正確な情報が集まる。スター記者が横断的に他のニュースを補強することは非常に価値あることだ。記者にはこういう道もある。

 

第三章 言論

 日本とは違い、アメリカのテレビ報道ではイデオロギーが前面に出る。FOXは保守メディアとして成功した。そんなテレビにおける言論の話。

 アメリカのメディアはこうした事情から分断が激しいことは周知の事実だが、驚くべきはメディアを監視するチームも左右で分断されていること。リベラル派メディアは保守系団体が監視、保守系メディアはリベラル派団体が監視、といった具合だ。BPO的な中立の第三者が監視を担当することはない。そりゃ選挙もあんな風になるわ。

 加えて著者が高く評価する「ファイアリング・ライン」というディベート番組も面白そう。この番組の功罪のうち「罪」にも注目しながら、しきりにお勧めしてくれるので。

 

第四章 風刺

 アメリカで政治コメディはジャーナリズムの一形態だと認識されている。僕が好きなハサン・ミンハジの「PATRIOT ACT」もそういう意味ではジャーナリズムになるのだろう。すごく面白いので是非見て欲しい。

 本書で紹介されるコメディアンで面白そうなのは、イギリス人のジョン・オリバー。事前情報なしに見ると普通のオピニオンショーに見えるくらいの作りになっているらしい。日本のゆるキャラを風刺しながら最後は陰謀論を茶化す。古典的ながら芸術的なやり口だ。

第五章 移民

 特定の民族を対象にした「エスニックメディア」についての章。中国関連のメディアに大きな文量が割かれる。ユダヤ系メディアの紹介で、「政治言語」の重要性を語る際に引き合いに出された「台湾語」の話は、この間読んだ「台湾生まれ日本語育ち」に通づるものがあった

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おわりに

 アメリカでの日系人投票率を高めるために、ニューヨーク本部で働いていた著者は「ほんのささやかな抵抗」をする。イベントに日系人政治家を招き、日系人アンカーマンに演説を以来したのだそう。

 このような行動は素敵だと思う。政治やメディアにアクセスしない、できない人に目を向けることは、各人の情報摂取に資するからだ。議会に殴り込んだトランプ大統領支持者も、渡辺さんのような人がそばにいれば、あるいは。

 

 

金儲けのレシピ

金儲けのレシピ

 

はじめに

 力強すぎるタイトルに黒字に金文字の装丁の、実に怪しい本がある。しかも著者名が「事業家bot」。品もへったくれもあったもんじゃない。黒と金の組み合わせが許されるのはローランドだけだ。

 しかし内容が気になる。お金が嫌いな人はいないし、黒の表紙はミステリアスで蠱惑的だ。結局読むことにした。

 実業之日本社発行「金儲けのレシピ」について。

 

全体をみて

 売れている企業のノウハウを体系化、言語化する本だった。本書で書かれる「儲けレシピ」はいざ示されて見ると特異なものではなく、「その通りだな」と思うものが多い。隠し味や調理器具にスペシャルなものが使われたレシピでなく、作り方の工夫で勝負、と言ったところか。 

 おそらく本書を手にとる人の大半は経営者や企業家ではないと思うから、レシピを実践するのは難しいと思う。それでもこの本を読むのはためになる。本書の価値は成功しているビジネスをカテゴライズしてわかりやすくするところにあり、それを知っていることは「どのような構造が金を産むのか」という視点の形成に役立つからである。この視野は何も経営、企業にのみ役立つわけではなく、普段の仕事や、消費者としてサービスに「騙されない」ことにも寄与すると思われる。

 以下、面白かった記述について。

 

客に作業させる

 著者はIKEAのビジネスを「単なる板とネジと棒」を「棚」だと言い張る、と揶揄する。言われてみればその通りである。家具の販売は材料の調達コストより組み立てコストの方が高くなりがちであるが、IKEAはその作業をまるまる客に押し付けた格好だ。

 しかし我々はIKEAの家具を喜んで買う。安いしおしゃれ、なんなら組み立ても楽しい。なるほど素晴らしい発想。

 似た手口を使う商売に「焼肉屋」がある。こちらも「焼く」という調理工程を客に投げることで従業員の手間を減らしているのだ。

 このようにあるやり口を抽象化して言葉でくくり、あらゆるビジネス形態に当てはめて考えるのが本書のすごいところ。

 

マーケティングドリブン

 「売り上げ−売り上げ原価−販管費=利益」これを前提とする限り、原価が低いビジネスはその分販管(広告など)に金をかけられる。タピオカや鯛焼きサプリメント販売などの業態は原価が低いため、当然どの販売者も広告に金がかけられる。となると売れ行きは「いかに広告をうまくやるか」で差が出る。よって広告の打ち合い戦が起こる。

 顧客さえ獲得できれば儲かるビジネスは巧妙な「広告」を打ってくる。消費者たる僕らはこのことを頭に入れておこう。

 

形のないもの

 無形商材を売るのは難しい。金融商品コンサルティングサービスにはえてして懐疑的な目が向けられるものだ。これらを売るためには様々な方法がある。「有形商材っぽくする」「課題解決を謳う」など。

 本書には書いていないが紙メディアも似たような仕事だな、と。「情報」という無形物を売り、(ネットやスマホでも情報は手に入るのに)有形物らしきものも見せ(紙媒体)、将来に有効そうな言い回しで売る。

 だからこそそこにどれほどの価値、課題解決力を載せるかが勝負になってくるとも思う。

 

取引の一回性

 家や車の売買など取引が頻繁になされないビジネスでは、売る側が取引の瞬間に「なるべく多い額を絞り取ろう」とする。そりゃそうだ、一度打売ってしまえば今後の関係はないに等しい。

 逆に何度も取引をするビジネス、スーパーマーケットや備品補充などは継続的な「お付き合い」がなければ儲からない。したがって顧客をそれなりに大事にする。

 大きな買い物をする前に覚えておこう。

 

安いプレゼントを喜ぶやつはいない

 安い高いの判断は絶対的なものでなく相対的なものである。5000円という値段が提示された商品を考えてみよう。これが鉛筆だったら「高い」と感じる人がほとんどであろうが、パソコンだったら誰もが「安い」と思うはずだ。

 プレゼントに安いものをもらって嬉しい人はいない。値段の相対性を考えれば「いくらだしたか」ではなく「何に」「いくらだしたか」を考えることがプレゼント選びの肝である。もちろん人に渡す物として最低限の金額もあるので、その辺りを総合的に考慮しよう。あとは気持ち。

 

おわりに

 参考になるかどうかは捉え方次第だが、とても面白い本だった。1時間かからずに読めるので興味がある方はぜひ。

 

医者が教える食事術 最強の教科書

医者が教える食事術 最強の教科書

 20万人を診てわかった医学的に正しい食べ方68

 

はじめに

 年末年始をだらだらと過ごしていたら幾分か太ってしまった。昨年はわりと摂生していたのだが、年の瀬ということで無礼講。体重増加は当然のことなので結果に悔いはない。

 なかやまきんにくんも言っていたように、ストレスを溜めずに少しずつ戻せばいいのだと思う。失敗が取り返せないことはない。

 ということで、ダイエット食生活の参考文献に選んだのが牧田善二著「医者が教える食事術 最強の教科書」(ダイヤモンド社)である。

 

全体をみて 

 糖尿病専門医が書いた本なので、ある程度は信頼ができるはず。著者は食生活で気にすべきことは「糖質」「血糖値」であると宣言し、これらのコントロールを主眼においた食事法を提案する。

 ページ数が多いのでちょっと手に取りにくいと思うかもしれないが、後半(4章以降)はおまけみたいなもので、3章まで読めば本書の教えはわかる。まずは半分ほど読んでみるのもいいだろう。

 また出版がダイヤモンド社というだけあって、この本のターゲットは30代〜のビジネスパーソンである。著者もしばしば「ビジネスパーソンなら〜」みたいな言い回しをする。でも若い人だって読んだ方がいい本。

 以下、各章気になったところについて。

 

序章 人体のメカニズムに沿った最強の食事

 人体は糖質を積極的に摂るようプログラムされている。これは有史以前、我らが祖先の暮らしが体に刻み込まれているからである。しかしこの糖質が簡単に入手できるようになった現代と、このプログラムは非常に相性が悪い。結果的に我々は「糖質依存症」とも言える状態に陥った。

 最近よく聞く話である。糖質制限が流行るのもこの風潮によるところが大きい。本書は2017年に出版されたので学説に多少の変化はあるかもしれないけれど、いち早く糖質の危険性を訴えた本のひとつであると言えそう。

 この章で少し気になったのは過去の人類が食べていた食物を「良質」と書いているところ。いやまあその通りというか、今から見れば成分が良質なんだろうけれど、それって大昔基準で作られている我々の体から見れば「良質」よいうよりは「普通」なんじゃないかと。良し悪しは相対的なもので、過去からあまりバージョンチェンジがなされていない体のメカニズムからすると、今の食生活は「異常」であろう。しかしこれは結果としてこの「異常」さが「悪い」ものになっただけで、何千年も前から今と同じ食生活をしていればこれが「普通」だったはずで。まあこんな言葉遊びの建設的でない批判はさておき。

 とにかく糖質過多な食生活は我々の体にあっていないらしい。

 

第1章 医学的に正しい食べ方20

 本書のサビ。ここ最近は常識的になっていても、当時見れば目から鱗だったような記述が満載。以下、箇条書きで。

プロテインはNG 人工的に作られたプロテインで、一度に多量のタンパク質を摂取することは腎臓によくないらしい。まあ過去にプロテインなんてものはなかったので当然と言えば当然か。毎朝プロテインを飲んでいる僕としては耳が痛いが、朝食の代わりに飲むならいいでしょう、ということで。

・オリーブオイルはOK 糖質と一緒に摂取すれば血糖値の上昇が抑えられるそう

・ナッツはOK 不飽和脂肪酸、ビタミン、ミネラル、食物繊維など、体にいい成分がたくさん含まれているらしい。きんにくんもクルミをお勧めしていた。

・大豆もいい タンパク質は植物性のものから摂るのがいいらしい。食べ物として点数をつけるなら100点。牛乳を豆乳に置き換えるのもいい。これはやってた。

・酢もいい 第4章で出てくるAGEを下げる効果がある。さらに血圧も下げる。合成酢ではなく天然のものを選ぼう。

 

第2章 やせる食事術

 サビその2。ダイエットに主眼をおいた食生活を紹介。以下覚えておきたいこと。

・ベジファースト 野菜を最初に食べることで血糖値の急激な上昇を抑える。糖質は最後に。コース料理でもご飯・パンは終わりの方に出てくるでしょう。

・3ー5ー2 朝、昼、夜の食べる割合。スペインでは昼食をガッツリ食べて夜はさくっと、みたいな食生活が普通らしいが、これを見習おう。できれば夕飯で炭水化物を摂ることを避けよう。

 

第3章 24時間のパフォーマンスを最大化する食事術

 サビその3。今度は1日を活力あるものにするための食事について。この章くらいからは結構前までの繰り返しになってくる。豆乳がいいとか。糖質は体によくないとか。糖分をとって「すっきり」したように感じるのは、糖分中毒の証であるらしい。糖に依存していなければ、常に一定の集中力を保てるが、糖質依存になると「糖がない」時のパフォーマンスが落ち、摂ると一瞬ハイになる。だから「すっきり」と感じるカラクリ。

 さらに塩分についての記述もある。まあ当然「取りすぎ注意」という話なのだが。塩分過多は腎機能を低下させるので、意識的に減らしていきましょう。味付けはスパイスや酢で。

 

第4章 老けない食事術

 病気や老化現象の犯人として注目される物質AGEと、その発生を抑える方法について。タンパク質や脂質がブドウ糖と結びついてできるというこの物質は細胞に炎症を引き起こすそう。この「炎症」については「最高の体調」(クロスメディア・パブリッシング)にも書いてありました。

 紫外線はこのAGEを増やす?ようなので、日焼け止めを塗ろう。肌が健康になるらしい。

 

第5章 病気にならない食事術

 免疫システムをきちんと働かすための食事について。 

塩分を摂るときはカリウムが含まれている食品を摂ることで、塩分の排出を促しましょう。

 

第6章 100歳まで生きる人に共通する10のルール

 詳しくは本書を読んでもらいたい。「人生100年時代」どうせ生きるならただ生きるだけじゃなく健康に生きたい。

 この章では「コカ・コロナイゼーション」(食文化の現代アメリカ化)という言葉が出てくるが、これってコカコーラから来てるんですかね。

 

おわりに

 食生活を変えるのは難しい、と思うかもしれない。もはや習慣化された風呂上りのアイスクリームや、深夜のラーメン、夕食のどか食い、、、。我々は毎日何かしらを食べて生きているし、長く続けたものを一新するハードルはとても高く見える。

 けれど逆に言えば、食事は毎日やってくる。つまり、改革のチャンスは非常に頻繁に訪れるのだ。もし今日できなくても、明日から。それができなくても「いつかやったんぞ」という気持ちを持ち続けることが大切なのではないか。きんにくんもそう言ってたし。

 

 

 

 

マンガでわかる ブロックチェーンのトリセツ

マンガでわかる ブロックチェーン

のトリセツ

 

はじめに

 ビットコインバブルはとうの昔に終わったと思っていた。TVコマーシャルで芸能人がビットコインを宣伝する事もほとんど無くなったし、消費者庁が注意喚起を行った事もある。そんな逆風もあってビットコインは危険で怪しいモノになってしまった。

 それに伴い、何もわかっていないかつての自分は、「ブロックチェーン」(以下BC)も終わったのだと思った。当時はBCとビットコイン(両方略すとBCになってしまう)をほぼ同じモノだと捉えていたからだ。

 しかし、中田敦彦のユーチューブ大学や知人からの話を聞いて、どうやらそうでもないことに気づく。BCは「技術」であり、それを通貨に応用したのがビットコインであるようだ。

 したがって、ビットコインが「終わった」(あくまで投資の対象として、それも一部の怪しい売り方をしているモノに限って)ことは、BCのおわりとイコールではない。むしろこの技術はさらなる可能性を秘めている。

 そんなBCの可能性をわかりやすく教えてくれるのが、森一弥著佐倉イサミ画「マンガでわかるブロックチェーンのトリセツ」(小学館)である。

 

全体をみて

 BCを解説する本の中では最もわかりやすい部類に入るのではないだろうか。しかし「マンガでわかる」とあるものの、各章の導入にマンガが用いられているだけで、本書の70%くらいは授業ノートのような紙面で構成される。ストーリー→解説の流れになっているから抵抗なく読めるというだけで、解説ページは専門用語もきちんと出てくるから、普通に難しいところもある。「マンガ認知症」に近い構成と言えるか。

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 とはいえ、専門用語は使われる前にきちんと説明がなされるし、極力情報量を抑えたレイアウトも初心者には嬉しい。キャラクターが口語で説明してくれるから頭にも入りやすい。随所にわかりやすさへの工夫がなされた本だと言えるだろう。

 以下、面白かったところについて。

 

法改正

 日本では「資金決済法」が2020年5月に改正され、仮想通貨がいち早く法律に盛り込まれた。条文内では「暗号資産」と定義されているようだ。現時点で仮想通貨は投資対象としての側面が強く、決済手段としてはブラックな分野で用いられる事も多いが、制度上は幅広い取引に使えるようだ。

 

トーク

 BCにおいて理解が難しい概念のひとつが「トークン」。これは「価値を持った数字の情報」をさす。なんのこっちゃ。ものすごく平たくいうと、情報が金銭に限らない価値をもち、支払い等に使える時その情報単位を「トークン」と呼ぶ、的な感じか。

 本書で出てくる例のうちわかりやすいのは「大根を誰にいくつ発送したか記録すると、発送先の人にその分のトークンが渡される」という言い回し。

 トークンを使えば法定通貨や「金額」に縛られない取引ができることから、ものの価値を正当に表現できる強みもあるようだ。

 このあたりを読んでいて感じたのは、西野亮廣の「レターポット」に似ているな、ということ。あちらは文字をお金で買い、文字が通貨的に使われるサービスだが、お金以外の何かが取引に用いられるという面で類似しているかと。全然違うかもしれないけれど。

 

スマートコントラクト

 便利そうな技術。取引の契約内容をあらかじめBC上に書き込んでおくことで、条件が達成されると自動的に取引を実行してくれる契約管理方法。

 「魚を届けてくれた人に対価を払う」と書き込んでおけば、あとは自動で支払いがなされるというわけだ。便利過ぎないか。もちろん対価にはトークンが使われるし、BCのシステム上、ネットワーク内の全ての場所で取引の精査がなされるから、不正の心配も少ない。

 ちょっと脱線するけれど、BCの性質のうち「中央サーバーが不要」という面も大きく世界を変えそう。

 

量子コンピュータ

 BCの敵になりうる存在。処理速度が飛躍的に伸びたこのコンピューターの前には、さすがのBCも対応を迫られる。具体的には暗号が解読される危険性が上がる。一説によれば2027年にはBCの暗号技術は破られるんだとか。

 対応するための「量子耐性」を備えたBC運用も始まっているらしい。流行る前からすでに終わりが見えている技術ってなんだか悲しい。

 

ステーブルコイン

 なんらかの方法で価値を比較的安定させた仮想通貨のこと。多くは法定通過に「ペッグ」(レートを一定に)する。先日名称変更したFacebookの「ディエム」(元リブラ)なんかもここに分類されるらしい。

 

おわりに

 BCは技術というよりは「概念」だということはよく言われる話である。技術は応用して、あるものを改善する方向で用いられることが多いけれど、「概念」ともなると生活を根底からひっくり返せる可能性がある。量子コンピューターという「技術」にBCは勝てるか、はたまた共存し、己を改善するものとして取り込むのか。今後も目が離せない。

 

 

 

 

 

 

 

名画の読み方

名画の読み方

世界のビジネスエリートが身につける教養

 

はじめに

 先日は『「名」文どろぼう』を読んだが、今回は『「名」画の読み方』。当方美術館に行くのはわりと好きな方なのに、美術への造詣は全くない。どの絵を見ても「きれいだなあ」「すごいなあ」くらいの感想しか出てこないのはなんとも歯痒いので、以前読んだ「いちばんやさしい美術鑑賞」から少し発展させてみることに。

 木村泰司著、ダイヤモンド社発行。

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全体をみて

 19世紀までの西洋絵画を宗教画、風俗画、肖像画など6つのジャンルに分けそれぞれ年代を追って解説してくれる本である。ある程度世界史の知識があったほうが面白く読める。

 表紙やレイアウトが白と黒のみで非常にシンプルなのも良い。本書には絵画のコピーがいくつも収録されているのだが、色鮮やかな美術品がモノクロの地によく映える。

 ただ、サブタイトルに「世界のビジネスエリートが身につける」とあるものの、絵画と現代ビジネスの関係については全く触れておらず、若干のタイトル詐欺感も否めない。著者の本業はビジネスでないので、おそらく編集・マーケティング的な意向から付されたものだと思うが、これはいただけない。

 以下、各章面白かった箇所について。

 

第1章 宗教画

 キリスト教ユダヤ教の歴史を踏まえ、歴史画の一分野、宗教画を解説してくれる章。聖書の時系列に合わせて論が進むので、ここを読むだけである程度新旧聖書のこともわかる。

 ユダヤ教から派生したキリスト教なので、当然モーセ十戒のひとつであるぐう有象崇拝は避けるべき、しかし宗教を広めるために視覚的な効果も欲しい。そのために「イエス」のイコンを通して「神」を拝む、という理屈が発展した、という記述も面白い。

 それにまつわるレオン3世の聖像禁止令も懐かしい。「726年 何(72)が無(6)理だと聖像禁止」で覚えた方はどれほどいるのだろう。

 加えて「アトリビュート」の話も知っておいて方が良さそう。これは聖者を識別する「持ち物」「象徴」のことで、例えばマルコのアトリビュートは「有翼のライオン」。キャラクター特有のアトリビュートを覚えれば、絵画に描かれているのが誰なのかすぐにわかる。それがわかればスマホなりで当該聖者の素性を調べることもでき、より絵画を楽しめそう。

 

第2章 神話画・寓意画

 続いてはギリシャ神話などをモチーフにした神話画、抽象的な概念を描き表した寓意画について。こちらも歴史画の一分野。

 神話画に関しては特定の神のある場面をモチーフにしたものばかりなので、神話のストーリーを知っていればかなり楽しめそう。それぞれの神のアトリビュートも知っておけばより良い。1つだけ難癖を付けさせてもらうと、本書ではギリシャの神々をローマ名で記述するのが非常にわかりにくい。ゲームなどでギリシャ神話に触れてきた世代なので、ヘラとユノ(ジュノー)ならヘラの方が馴染み深い。冒頭に対照表があるので遡れば良いのだが、逐一「あれ、これはどの神だっけ」と変換するのがややこしいので、ローマ名呼びが常識なのかもしれないが、毎回かっこ書きを付けてくれれば良かった。

 さておき、問題は寓意画である。こちらは人文主義的教養、聖書への造詣を元に「読み解く」要素が強い絵画だ。つまり難しい。例えばボッティチェリの「春」。右手の女性2人は同一人物であり、風の神ゼフユロスによって変身させられている。左手メルクリウスが雲を杖で払い除けるのは人間の愛と神の愛の比較を示す。これが初見でわかるわけがない。何かを楽しむには知識が必要である。サッカーだってルールを知らねば面白くもなんともない。

 

第3章 肖像画

 こちらはもう少しわかりやすい。裕福な層が自らの痕跡を残すため、画家に発注した肖像画。今は写真があるからわざわざ絵を描いてもらう事もないが、当時はさぞ重要なものだったのだろう。この辺りの話はマンガ「アルテ」でちょこっと知っていたので面白く読めた

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 この章ではレンブラントファーストネーム戦略の話が面白かった。画家として一流になるには優れたマーケティング戦略も必要。

 

第4章 風俗画

 日常生活を描いた絵画。歴史画や肖像画より格下だと思われていたようだ。

例えば「農民画家」のイメージが強いブリューゲルは、実際都市に住む知識人で、顧客は上流階級の人々だったそう。当時の農民に絵は買えない。その絵も「働く尊さ」というよりはむしろ「愚か」な農民たちを描いて反面教師的にエンターテイメントに消化したものだというから驚きである。思ったよりやな奴。

 この章で好きな絵はピエトロ・ロンギの「犀(サイ)」。草を食む姿に漂う哀愁がたまらない。それからゴヤの「バルコニーのマハたち」。みていてものすごく不安になる目をした少女たちが印象的である。

 

第5章 風景画

 最初は単なる「背景」に過ぎなかった風景も、次第に独立のジャンルとして評価されるように。きっかけはオランダの独立。それまでは「風景を愛でる」ような価値観はなかったが、オランダの独立を勝ち取った人々が持つ愛郷心が風景画発展の源泉になった、と著者。

 現代の僕らが観て圧倒されるのは大きな風景画である事も多い。

 

第6章 静物 

 止まったものを描く静物画。でもこれ、あるものをあるがままに描いているだけじゃないらしい。それぞれの物に込められた意味があって、それをきちんと読んでいくのが静物画鑑賞のコツ。

 この章で紹介されるロベルト・カンピン「メロードの祭壇画」は特にすごい。「受胎告知」テーマを市民階級の家で再現する大胆さ、描かれたアイテムに散りばめられた意味、どこをとってもチャレンジングな一作である。

 

おわりに

 実際に美術館に行きたくなる本だった。「観る」から「読む」へ、絵画を味わう新たな視点を得られました。